誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

OpenCommで録音した音声をAeropex, AirPodsと比較してみました

はじめに

骨伝導ヘッドセットがけっこう良いという話を聞いたのでAfterShokzのAeropexを試していたのですが,

どうせなら授業の教材作成にも使えるものもあると良いなと思ってOpenCommも購入しました。大きな違いは独立したマイク(ノイズキャンセリング有り)が付いていることです。

まだOpenCommの方は長時間の使用(たとえばオンライン学会で一日中使いっぱなしとか)などはしていないのですが,録音した音声の質がどれぐらいのものになるのか気になって試してみた結果を動画として公開します。


OpenComm (AfterShokz) の録音音声比較

簡単なまとめ

動画でも簡単に感想としてまとめてありますが,結果としては,思った以上に録音用としても使えそうです。明らかにAeropexやAirpodsよりは良い音声で録音されているのではないでしょうか。

うまく動画にできなかったので省いてしまいましたが,USB接続でOpenCommよりも口元に近いマイク付き(+ノイズキャンセリング)のヘッドセットと比べてもあまり変わらなかったです。今までの授業用教材はすべてそのヘッドセットで作っていたので,OpenCommはその代替にできそうかなと(AirPodsは1回使って音が良くなかったのでやめました)。Aeropexも意外と良いんですが,AirPodsとともに,マイク内蔵型は教材の録音用としては厳しい気がします。オンライン会議とか研究会・学会への参加ではほとんど問題ないんですけど。

今はもう教材の録音用にマイクを持っているという教員の方も多そうですが,何かしらの参考になれば嬉しいです。

OpenCommの全体的な使い心地もけっこう良い感じなのですが,具体的なレビューはもう少しいろいろ使ってみてからにしようと思います。

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2020年の読み逃し配信(過去記事のまとめ)

もう1年を振り返るような時期になってきたようで,恐ろしいですね。

例年,その年に書いたベスト記事を紹介し直すという記事を書いていたのですが,

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今年はなんだか(時間や手間をかけて書いた割に)思ったほど読まれなかったなという記事が体感として例年より多かったので,そういう記事に絞って紹介し直したいと思います。

このブログだと特に専門的なことについて書く場合はかなり調べたりして書いてもぜんぜん読まれないってのはむしろ普通なのですが,今年は全体的にアクセス低調だったように思います。筆力落ちたかな?

的外れかもしれませんが,その時話題になっていることについてはほんとうにすぐ記事を上げないと読まれないという,そのタイムリミットが以前より厳しくなっているような気がします。

言語学

専門に関する記事は年内にもう少し書けるといいなと思っています。下記の記事はそれでも比較的読まれた方ですが,定期的に話題になるにしてはさみしかったかなと。私としては今後同じ話題が出たときに参照できるのでやはり書いておいて良かったのですが。

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ラーメンズで言語学は小林健太郎氏引退に寄せたものですが,もっと早く上げないとダメだったのかも。

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マンガ

マンガのコマが引用しやすくなったので,書いてみることにしました。第一弾は『さよなら私のクラマー』。自分としては好きなことを書き殴り続けるという感じで楽しかったです。また他のマンガについても書く予定。

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スポーツ(特にテニス)

やはりコロナ禍関係でいろいろ考えることがあったのと,大坂なおみ選手のパフォーマンスがすごかったので。大坂選手は「差別」関連ではかなり話題になりましたが,一般的にはテニスのパフォーマンス面がその分あまりに言及されていないように見えて残念でした。

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研究・教育

これもコロナ禍関係で,ふだんより教育について書くことが多かったと思います。日本学術会議関係の記事はかなり読まれたのですが,補足記事はやはりあまりだったので再掲。私としてはこちらも同じぐらい重要な記事です。

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あと2019年に書いた記事の年をまたいだ補足。

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子育て

やはりコロナ禍関連で色々書きましたが,自分で読み返して印象的だったものをそれ以外から2つ。

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政治

ふだんはあまりこういう話題について書かないのですが,個人的にはかなり意外なことに精神的なダメージがあったので書きました。ただ今思い返すと生活全般的に参ってた(参ってる)ということもあるのかもしれません。

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ブログ

さいきんのブログ周りのあれこれを見てると結局こういう古典的な手法が良いかもと思うのですが,自分でやろうとするとなかなか難しいですね。

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おわりに

年内にまだあと何本か書く予定なので総括的なことはここではやりませんが,ブログ難しいなと思わされることが比較的多かった1年でした。

ラーメンズで言語学 (4):「元栓」は今?語と句とアクセントと変わった接辞

はじめに

ちょっと前に小林賢太郎氏のパフォーマー引退に寄せてその3を書いたのですが,その時思いついたもう1つについても書いちゃいます。

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その3と同じで,短い記事です。その1やその2のようなラーメンズのコントを例に言語学の重要な考え方や概念を紹介するというタイプの記事ではありませんが(私の一番のおすすめは1です),よく考えると不思議だなというのを少しでも味わっていただければ。

  1. ラーメンズで言語学(1):「大マンモス展」と語の組み立て方の話 - 誰がログ
  2. ラーメンズで言語学(2):「熱が出ちゃって」「どこから?」述語と項のお話 - 誰がログ
  3. ラーメンズで言語学 (3):切るのに「はさみ」?連用形名詞の話 - 誰がログ

なお,この先を読む前に,下記の点にご注意ください。

  • 当然のことながらネタバレを含みます。
  • いわゆるお笑いのネタを学問的な題材にする,野暮な試みでもあります。理屈付け(のようなこと)が好きでない方は読まないが吉かもしれません。特にラーメンズファンの方はご注意ください。
  • 発話者名は演者名の「小林」「片桐」で統一します。
  • 文字起こしはそれほど正確ではありません。

題材

今回も第14回公演『STUDY』「ホコサキ」からのネタです。

ラーメンズ第14回公演『STUDY』 [DVD]

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  • 発売日: 2009/10/21
  • メディア: DVD

いつも書いていますが,YouTubeに公式の動画があるのは素晴らしいです。


ラーメンズ『STUDY』より「ホコサキ」

会話

今回も前後の文脈は特に必要ないかと思います。

小林「要するに彼が何を言いたいのかと言うと,「元栓」が「元・栓」なら,今なんなのかと。」
片桐「違います」

文字起こしだと表しにくいのですが,最初の「元栓」はアクセント(ピッチが下がるところ)がなく(いわゆる平板型),後の方の「元・栓」は「・」を入れて示したように,音が分かれています。アクセントも「も\と・せ\ん」となっています(以降,\でアクセント:ピッチが下降しているところを表すことにします)。

Aoyagi Prefix

まず,元来の「元栓」に含まれている「元」は「以前」という意味ではなく位置関係を表していると思いますので,ホコサキさんのツッコミは変なのですが,ホコサキさんが指摘している「元・栓」に出てきている「元」の方はなかなか面白い性質を持っていることが知られています。

先行研究としては,音声・音韻を中心に日本語についての重要な研究を出しているWilliam Poserという研究者の論文があります(ちなみにMITで出した博論も日本語がテーマ)。本に収録されている研究なんでリンクが難しいんですが,次のページが分かりやすいかと思います。

citeseerx.ist.psu.edu

この「も\と-」の何が面白いかというと,接頭辞であるにも関わらず,それがくっつく要素との間に「句」と呼ばれる大きな単位の境界があるように見えるのです。もっとざっくりまとめると,接辞というのは必ず他の要素にくっつかなければならないのですが,くっつく相手とはある程度距離を置くという感じですかね。ツンデレ?

まずアクセントから見てみましょう。これもあまり簡単にまとめるとお叱りの声が飛んできそうですが,接頭辞はくっついた要素と合わせて1つのアクセントを持つことが多いです(なお,複合語でもよくそれぞれの語のアクセントが一緒になるのでアクセントが一緒になるから接辞というような判定はできません)。

  • 一般的な接頭辞の例:こ+さかな→こ-ざ\かな,おお+おとこ\→おお-お\とこ

一方,接頭辞「も\と-」は,他の要素にくっついても,「も\と-」自身のアクセントを保持し,またくっついた要素のアクセントにも干渉しません。

  • 「も\と-」が付いてもアクセントは保持される:も\と-+だいと\うりょう→も\と-だいと\うりょう

このような接頭辞を,Poserは “Aoyagi Prefix”と呼んでいます。この現象を最初に?指摘した研究者の名前を冠したとのことで,その研究は以下の論文誌に入っている “A Demarcative Pitch of Some Prefix‐Stem Sequences in Japanese” という論文だそうです。

句と句音調

さて,「も\と-だいと\うりょう」の例を実際に言ってみると,「だ」と「い」の間にピッチの上昇があることに気付く人もいると思います(これは方言によっては出ない人もいるかも…)。これは「東京方言」で良く知られている,「句 (phrase)」の境界を示すピッチの変化で「句音調」と言います。日本語の音韻のことに詳しくないと,アクセントと同じように見る人が多いように思いますが,アクセントは基本的に「語 (word)」という単位に属する性質で,句音調とは区別されます。

「も\と-」は,この句音調にも干渉しないのですね。つまり,「句」の境界が接辞付加という「語」を作るプロセスの中で出てきているわけです。以下,句音調は「/」で表します。

  • 「も\と-」はアクセントも句音調も保持する:も\と-+だ/いと\うりょう→も\と-だ/いと\うりょう

句音調の基本的な性質や,「東京方言」以外の方言でどのように出るかということについては以下の本に分かりやすい解説があります。というか,これまでも何度かおすすめしていますが,アクセント全般について基本的なことを知るのに良い本です。

なお,PoserはAoyagi Prefixとして,他に現-,反-,非-,対-,前-,全-,などを挙げています。影山太郎による研究もあるのですが説明が大変ですし割愛。ちなみに,私はさいきん外来語系の接辞の研究をしているのですが,「ポ\スト-」(例:ポ\スト-あ/べな\いかく)もAoyagi Prefixぽいですね。

おわりに

相変わらずぜんぜんラーメンズの話はしていませんね。今回も書いててしみじみ感じましたが,ラーメンズのすごいのは,こうやって解説を書くと意外とややこしい事情や背景があるような言語の(不思議な)現象や性質を,そういう説明などせずに面白く分からせてくれるところにあると思います。

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