誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

オリンピックで「終わったこと」にしてほしくないことをいくつか

はじめに

新聞等のメディアに今回の東京オリンピックの総括記事が出ていますね。もう終わったのだしとっとと総括して一区切り付けようというような考えも分かる一方で,開催(直)前からある話なのにその後の詳細があまり公開・検討されていないものもあるのではないかと思います。

この記事では,大会の運営,あるいはメディアやジャーナリストなどの方々に「終わったこと」にしてほしくない,できれば時間をかけてちゃんと調査・報告してほしいことをいくつか挙げておきます。中にはかなり私の個人的な動機・興味関心に基づくものもありますので,多くの人に忘れないでほしいという主張ではありません。

中にはパラリンピックにも関わる問題もあるのですが,パラリンピック自体の開催可否や開催の形態も不透明のような気がしますのでこのタイミングで書いておきます。ただすぐに調べて知らせろというようなことではなく,どちらかというとしっかり丁寧に調査してほしいです。資料の整理や記録はすぐやっておいた方が良さそうですけどね。

なお,多くの人がずっと言及し続けている大会招致や暑さ対策などの問題は,COVID-19感染対策を除いて特に言及しません。

COVID-19感染対策

私が書かなくても誰か書いている,あるいは書くことでしょうし,おそらくは大会運営側からも調査・報告が出るでしょうから心配はいらないのかもしれませんが,重要なところですので一応。

大会の運営や責任者の方々から「開催中は十分な感染対策を行っている」というコメントが何回か出ていたと思います。どの競技でどのような環境でどのような感染対策を行っていたのか,できるだけ具体的な記録を残しておいてもらえると非常に重要な資料になるのではないでしょうか。私が見た範囲に限っても,競技や会場ごとに細かな違いがあるのかなという印象を持ちました。

この大会が日本,あるいは世界におけるCOVID-19の感染に対してどのような形でどれくらい関与したかというのも正確には今後の調査を待たなければならないでしょう。どのようなことをしたのかという具体的な記録があれば,結果がどう出たとしても活かせるはずです。感染が抑えられていたのだったらそのまま各対策が参考になるかもしれませんし,感染が抑えられていなかったとしても「ここまでやったのにダメだった」とか「ここは良かったけどここがまずかったのでは」というポイントから話を始められるのは良いですよね。

今後どれくらい先,どれくらいの期間になるかわかりませんが,感染の心配はかなり減ったけれども何かイベントを開催するに当たってはまだ慎重に感染対策をしなければならないという局面が来る可能性は高そうに思えます。その時に,今回の運営の記録はスポーツに関わらず幅広い活動にとって有用と言えるのではないでしょうか。

小林賢太郎氏解任

小林賢太郎氏の解任に関する私の考えは下記の記事でかなり詳しく書きましたので改めて付け加えることはほとんどありません。

dlit.hatenadiary.com

ちょっと長くなってしまいますが,重要な箇所を引用しておきます。

オリンピック・パラリンピックの運営を担う人々が事実をどのように把握していて,どのような認識の下,どのようなプロセスを経て解任に至ったのかというのが良く分かりません(中略)後日でも良いので事実の内容確認と認識,解任までのプロセスについてしっかりとした具体的な説明・報告がなされるべきではないでしょうか。(中略)差別とかそういう問題について声を上げたり問題視したり批判したりする人はずっと前からいたわけで,そういう声に向き合わずになんとなくそのままにしてしまうことが多かった結果,今オリンピック・パラリンピックという国際イベントを前に進退窮まってしまっているのではというように私には見えます。
ラーメンズについてちょっとだけ(小林賢太郎氏解任に寄せて) - 誰がログ

小林賢太郎氏については「解任」なので特に大会の運営側の詳しい報告がほしいところですが,もしそのような報告が改めてなされるのであれば,辞任となっている小山田圭吾氏についても大会運営側の見解を出した方が良いのではと思います。

テレワーク推進

コロナ禍が本格化する前から,オリンピック・パラリンピック開催期間中はテレワークを推奨するという話は出ていたと思います。ところが,少なくとも表立った協力はあまり集まっていなかったようです。その後,どうなっているのでしょうか。下記は開催直前の2021年7月18日付けの記事です(テレビのニュースでも一瞬言及しているのを1回だけ見かけました)。

約800の企業や自治体が参加を表明しており、政府は3千社まで拡大させる目標だ。
五輪期間中テレワーク微増 中小企業「五輪でも働き方変えられない」 - 産経ニュース

コロナ禍のことがあるので,協力,あるいは賛同する企業や団体として名は連ねていなくてもテレワークを行っているというところもありそうではあります。オリンピック・パラリンピックの開催がテレワーク推進に寄与したということがあればCOVID-19感染対策にポジティブな関与もあったと言えそうですけれど,実態はどうだったのでしょうか。

食に関する認証(GAP等)対応

日本でGAP等の食品に関する国際的な認証への対応が進んでいないので,オリンピック・パラリンピックで日本の食品が(部分的にしか)使えないのではという心配は,一部ではかなり早くから出ていたと記憶しています。

私もそれほど詳しく調べたり定期的に情報を追ったりしていたわけではなく,この問題については特に現状がよく分かっていません。

検索した範囲では,やはり認証の整備や対応が進んでいなくて大丈夫かという心配も出てくる一方,認証に対応した農家の取引先の可能性が増えたというような記事も出てきます。実際,オリンピック開催期間での実態(選手村で提供された食事とか?)はどうだったのでしょうか。

手話と情報保障

これはNHKの話ですのでこの記事に載せるかどうか迷ったのですけれど,かなり気になる話ですので簡単に。

news.yahoo.co.jp

NHKでの放送なんてかなり早くから決まっていたはずですから,早くから検討していれば,視聴者の希望に応じて手話通訳を表示させたりさせなかったり操作できるという形態での放送ももしかしたら実現できたのではないでしょうか(技術的に難しいのかな)。

NHKという公共性の高い放送でこんなことがあったということ自体問題だと思いますが,今回の大会では「ダイバーシティ&インクルージョン」がキーワードとして掲げられているのです。

olympics.com

手話通訳は定期的に話題になりますけれど,たとえば東日本大震災の時に得られた見識やノウハウは蓄積されていなかったのでしょうか。

まあ大会の方でもパラリンピックの選手が十分なサポートを得られず出場しないことになったということもありましたし,もはやそこまで驚くようなことではないのかもしれません。

www.washingtonpost.com

おまけ:「感動」との付き合い方

人の行為や何らかの出来事に触れて感動するということはスポーツに限らずさまざまな場面でありうることで,他人に強制したり(過渡に)期待したりするようなことがなければ,それ自体は問題ではないと思います。むしろ,自分や他人の感動に触れたとき,どう付き合うかということが難しいのではないでしょうか。

dlit.hatenablog.com

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dlit.hatenadiary.com

入江聖奈選手を素晴らしいアスリートだと思った出来事

下記の張本勲氏の発言に関する記事を見て,ブログにも記録として残しておこうと考えました。

www.j-cast.com

入江聖奈選手のこともボクシングのこともそれほど詳しくないのではてブのコメント・Twitterで簡単に触れるにとどめていました。該当ツイートもはっておきます。

それほど付け加えることはありません。オリンピック開催の数週間前のサンデースポーツをたまたま見ていたら入江選手のけっこう長い語りを放送していて,そこでコロナ禍で競技を続けることやオリンピックに出ることへの葛藤について話していました。医療従事者など大変な状況にいる人にも触れていたと記憶しています。

もう一ヶ月以上前なので発言の詳細については覚えていないのですが,自分の考えを自分のことばで語っているという印象が強く残っています。このようにしっかり話をできるアスリートがいることは,ボクシングやスポーツにとって非常に良いことだとも思いました(必ずしもすべての選手がそうでなくてはならないとは思いませんが)。

オリンピックの開催前から今まで,アスリートが自らの言葉で何か言うべきだという意見を定期的に見かけます。中にはこういうアスリートもいたのですよ。オリンピックに参加したことそのものを問題視するような人もいるかもしれませんが,このように社会との関わりも踏まえながらその分野のことについて自分の考えを語ってくれる人の存在は,スポーツに限らず重要ではないでしょうか。

個人的には,「難しいですね」とか「選手も悩んでるんですね」といった紋切り型の表現で短く片付けてしまうメディアの方がこのような人たちのことばや語りをうまく受け止められていないようで問題ではないかと思います。

オンラインと対面のハイブリッドで演習の授業・受講生の発表をどうやるか(実践例)

はじめに

今年度,学部の演習の授業を対面+同時双方向オンライン配信のハイブリッド(ハイフレックス型)という形式でやっています。講義形式の部分のやり方(環境や使用機材など)については下記の記事を見てみて下さい。

dlit.hatenadiary.com

この記事では,学生が担当する発表の部分をどうやったかという点について簡単にまとめておきます。少しでも何かの参考になれば幸いです。

授業の条件と方法

演習の授業なのですが,私の講義の授業を取らなくてもある程度言語学に関する基礎知識や慣れがあれば受講できるとしています(ちょっと変わっているかもしれません)。これには講義と演習が隔年開講の関係にあるとか教職の教科に関する科目になっているといったいくつかの要因が関わっていて,どちらかというと仕方ない選択という感じです。

心理・教育系とか情報系から来た受講生が面白い発表するといったことも多く,人文系の受講生にとっても刺激になっているのではないかと考えています(ただ受講生によっては発表の準備が大変になっちゃうことも)。

こうやって広く受け入れることにしているので受講生がだいたい20-30名くらいになってしまい,受講生の発表枠の確保が大変です。

授業への参加は教室に来て対面で受けても良いし,オンラインで受けても良いとしています。また,毎回好きな方を選んで良く,私の対する報告などは一切必要ありません。最初の方は教室で参加する受講生が多かったのですけれど,後半はオンラインから参加する受講生の方が大多数になりました。理由は特に聞いていませんが,感染状況の悪化,前後の授業の形態との兼ね合いなど複合的な要因があるのではないかと考えています。

今回のポイントは2つです。

  1. 受講生の発表は録画したものを提出
  2. 質疑応答はすべてテキストチャットで行う

なお前期の発表の内容は日本語の文章研究に関する文献を1つ選んで報告(批判までやる)です。ただ「文章研究」の範囲はかなり広く取っていて,相談があれば対象言語も日本語に限りません(過去には英語のほか,ドイツ語やロシア語に関する文献の発表もありました)。第2言語習得や言語教育もありです。後期はこれを踏まえて自分でデータを取って分析して発表という予定です。

発表は録画

受講生の発表はリアルタイムで行うのではなく録画したものを提出するという形にしました。

理由の1つ目として,自分が話しているものを録画して評価してもらう形式に慣れるのも良いのではと考えたことが挙げられます。まず,学会発表でも録画という形式を取っているところがあります(オンライン開催に伴う緊急時の措置という側面もあるでしょうけれど)。また,就職活動の面接でも動画を録画して提出させるところがあるようです(今年は減ってるのかな)。

2つ目の理由として,私が(研究発表に関しては)リアルタイムでのやりとり以外のやり方もいろいろあって良いのではないかと考えていることがあります。対面会話での議論の重要性も十分承知していて,学問をやる上では完全には避けて通れないという考え方も分かります。ただ,私は大学での勉強や研究の良さの1つにゆっくり/じっくりやっても良いということがあると思うのです(即座に対応するのが苦手な人や熟考型でも参加/活躍できる)。録画という形式は口頭発表でその良いところを実現してくれるのではないかと考えて試してみました。

方法

  1. Microsoft Teams(以下Teams)の「ファイル」に受講生が発表を録画した動画のファイルと発表資料をアップロードする
  2. 私が提出された動画ファイルをMicrosoft Stream(以下Stream)にアップする:Teamsで授業のチームに参加している人しか視聴できないように設定できる
  3. 私がStreamの動画のリンクをTeamsの発表チャンネルに投稿として1つ1つ貼り付ける:コメントで質疑応答をやるため。Streamのコメント欄だと複数の動画のコメントを一覧するのが大変
  4. 受講生は授業の日までに発表動画を視聴しておく

発表動画はどのようなスタイルでも良いとしたのですが,あまり慣れている人がいなかったのか,結果として全員が授業でやり方を紹介したスライドに直接音声を付ける形式を選んでいました。

かなり心配してたのですけれど,予想よりかなり質の良い動画・発表が多く安心しました。この1年でかなりコンピューターに慣れたということもあるのでしょうか。

やってみて考えたこと

このやり方だと受講生が多くても発表枠の確保に悩まなくて良いです。これまでの授業では発表枠を確保するためにグループでの発表にするというようなことをやっていました。また,1つの授業(筑波大は75分)に2つの発表と質疑応答を入れていたため質疑応答もかなり慌ただしくなることがけっこうあったのですが,それにも悩まされないのは良かったです。

一方で難しいなと感じたのは発表の方法へのアドバイスです。私の授業では演習科目へのイントロ・慣れという目標も掲げていて(ほかの厳しい演習科目への入口として)発表のやり方,発表資料の作り方に関する具体的なアドバイスもやってきました。でもリアルタイムと録画では良い方法が異なることもあるのかなと。

たとえばリアルタイムでの発表では聞いてる方がついていくの大変だからスライドの情報を少なくするようにとアドバイスすることが多かったのですが,録画だと途中で止めたり視聴し直したりできるのである程度1つのスライドに情報をまとめる方が見やすいということもあるのかもしれません。もちろんそれでも詰め込みすぎは分かりにくくなっちゃうので程度問題ではあります。

録画を使った発表のノウハウって蓄積が進んでいるのでしょうか。とりあえず私の授業ではリアルタイムと録画の違いと気をつけた方が良いポイントについて触れ,リアルタイムの発表をする場合の注意点についても話しておきました。

テキストでコメント

TeamsやZoomを使ったフルのオンライン授業ならリアルタイムの発表と質疑応答であまり問題ないのですけれど,ハイブリッドだと対面(教室)とオンラインの音声をつなぐのが意外と大変です(教室の設備にもよる)。やり方がないわけではないのですけれど,時間がないとちょっと厳しいと思います(たとえばマイクを共有にすると意外と時間がかかるし感染対策も…)。

実はこれ,id:yearman さんの授業(やはり受講生の発表があるもの)を見せてもらった時にテキストでコメントする方法って良さそうだなと思ったのですよね。

方法

  1. Teams上で動画へのリンクになっている投稿に直接質問などをコメントする
  2. 発表者は自分の動画にコメントが付いたら直接返信する
  3. 動画がアップされたらどのタイミングでもコメントを付けて良い:授業時にやらなくても良い
  4. 授業日には私から各発表動画へのコメントや解説・補足をする時間を取るが,この時もコメントや返答をしてOK:ほかの人のコメントを見たり私の話を聞いて出てくるアイディアもあるかもしれない

やってみて考えたこと

これまでの音声でやっていた質疑応答ではどうしても特定の限られた人しか質問・コメントしないという流れになりがちだったのですが,このやり方だと時間を気にせず全員何かコメントしてねということができます。以前は授業時間内で質問・コメントできなかった人のものはリアクションペーパーのようなものを配って書いてもらっていました。

質問・コメントの量・質どちらを見ても全体としてはかなりやりとりが活発に行われたと言えるでしょう。特に受講生は研究発表を聞くことにも質疑応答にもあまり慣れていませんので,時間を取って質問・コメントを考えたり返答したりできることが大きかったのではないかと思います。

一方,ほかの参加者から注目され状況,限られた時間の中で手を挙げて質問・コメントしたりそれに応えるという練習にはもちろんなりませんでした。これまでほかの授業でまだ手を挙げて質問やコメントをした経験がなければこの授業で体験していってくださいということもすすめていたのでこの点はちょっと残念です。

おわりに

そこまで予想外に困ったということは出てこなくてほっとしました。リアルタイムの発表でも発表者が遅刻して冷や冷やするということがあったので(発表者が来ないというのは今のところないです)もしかしたら発表動画が提出されないという事態もあるのではと覚悟していたのですけれどそれもなし。期日までに動画を提出すれば良いので当日に大きく体調を崩して無理をおして発表するということも起きませんね(たとえば発表日に新型コロナ陽性や濃厚接触者になって自宅待機でも発表に参加できる)。

できれば受講生にはリアルタイムでの発表も体験してほしいので,後期は録画ではなくリアルタイムでの発表をしてもらう形で計画を考えています。これからの感染状況の推移にもよるので後期までにはなんとか落ち着いてほしいですね。今のところ感染状況もワクチン接種も見通しは暗いですけど…

あと,私の授業には該当者がいないのですけれど,たとえば聴覚障害を持っている受講生がいる場合にもテキストチャットは1つの手段になるのではないでしょうか。オンラインの学会発表でも(特に国際学会では)そういう誘導ありますよね。

学生の反応としては,期末レポートに良いやり方だったという感想がいくつかありました(感想は希望者のみ書いて良いとしています)。特に,止めたり複数回視聴したりして分からないところを確認できるのが良いというものが多かったです。ただ,私の体感だとそもそもレポートの感想はポジティブなものが書かれがちなので参考程度に考えています。ほんとうは参加者にいろいろ聞いてみた方が良さそうですがなかなかそこまで手が回らず。

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