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歯切れが悪いのは仕様です。

形態論の概説書・教科書がもう少しで出版されます

乙黒亮さんと書いた形態論(特に形態理論)の概説書・教科書、『形態論の諸相 6つの現象と2つの理論』がようやくそろそろ刊行できそうです。くろしお出版のサイトにページができたので先に紹介しておくことにしました。

本書は現代の形態論研究において盛んに議論されているテーマの中でこれまで日本国内で刊行された入門書,概説書,研究書であまり取り上げられてこなかったものに焦点を当て,その基本概念を実際の言語現象と合わせて概観すると同時に,それらの現象の理論的分析を提示することを狙いとしている。具体的には融合 (syncretism),補充法 (suppletion),ゼロ形態 (zero morph),虚形態 (empty morph),阻止 (blocking),迂言法 (periphrasis)の6つのテーマを取り上げ,分散形態論 (Distributed Morphology: DM)とパラダイム関数形態論 (Paradigm Function Morphology: PFM) という2つの理論的枠組みでの分析を示す。
形態論の諸相 6つの現象と2つの理論|くろしお出版WEB

執筆に関するエピソードとか、この本の特徴とか、そういう具体的な紹介はもう少し刊行が近づいてからにしたいと考えています。和文で得られるものとしてはかなり貴重な内容が多いと思いますので、興味のある方(どれだけいるかはちょっと不安)はご期待ください。

webでの発言と「居酒屋」のたとえ

webで批判や非難、誹謗中傷などネガティブな言及が話題になったときの「居酒屋じゃないんだから」「居酒屋でやれ」といった表現が以前から気になっています。さいきんもいくつかの話題で見かけました。表現としては特に新しいというわけではなく、かなり前から使われていると思います。

この表現を使っている人がみな同じ意図で使っているわけではなさそうですが、「居酒屋での発言なら問題が発生しない(可能性が高い)」ということは共通しているのではないでしょうか。

そのなぜ問題が発生しなさそうなのかという理由のところが気になっていて、これも推測でしかありませんが、「パブリックな場ではないので問題のある発言であっても届いてはまずい人に届きにくい」とか「酒席なのでなかったことにしてよい/してもらえる」などが思いつきます。

私の感覚では、前者は分からなくもないけど後者には賛同できないといった辺りです。

つまり、届かないだろうと想定していた当事者が(思いもかけず)その場にいたら抗議されたりするのは当然、ということですね。たとえば特定の地域や属性に対するネガティブな発言をしたらその場に対象になる人がいて…というケースはそんなに珍しいものではないのではないでしょうか(場を荒立てることを嫌って当人が名乗り出ないことはありうる)。

一方、「酒席だからひどい発言でも許せ」というのは個人的にはあまり好きではありません。絶対に許されないものだ、と言っているわけではなく、これって実は「酒席であること」+人間関係で成り立つものではないのかなと思うのですよね。たとえば「この人は酒の席でひどいことを言うってのは知ってるけどそこも合わせて一緒に飲む関係を続けたい」みたいなケース。ちょっと平和な例を出しましたが、力関係とか仕事関係でしかたなく場を壊せない、というようなこともあるかと思います。私自身も酒が入ると口が軽くなるような自覚はありますのでひとごとではありません。

ごちゃごちゃ書きましたけれど、簡単に言い換えると、webで「居酒屋でやれ」って言われている発言ややりとりには「いやそれ居酒屋で言ったとしてもひどくないか」と思うものがけっこう多いということです。

さて少し話が変わりますが、実は数年前からいわゆるタワマンに住んでいます。

さいきんwebではタワマンに住んでいる人には気軽にひどい言葉を投げかけても良いという雰囲気が醸成されているようで住宅関係の話題はとても書く気にはなれなかったのですが、このwebの雰囲気というか「ノリ」の影響なのか、さいきん対面でも「タワマンに住んでる人って(ネガティブな評価)」という発言に出くわす機会が複数あり、自分から言っておいた方が良いかなと思うようになりました。

タワマンに対するネガティブな言及自体はぜんぜん問題なくて、たとえばどこが住みにくいかみたいな話題なら良いんですが、先に「住んでる人って頭おかしいんですかね」みたいなこと言われたらその先やりとりしにくいですよ。その後すぐ話題が変わったりすると助かるんですけどね。なんでネガティブな言及をされてる方が場を壊さないように気を使わなきゃいけないんだ。webなら反応しなければだいたい大丈夫なんですが、対面だと対応が難しい状況になっちゃうことがあります。

ネットのノリやネタを対面で披露する場合、確実にそれが通じてかつ言っても大丈夫な相手かどうかを発言前にちょっと考えてみることをおすすめします。

ちなみにマンガ「タワマンで不幸にならない方法」は好きです。

【告知】Morphology and Lexicon Forum 2024(9月14-15,静岡県立大学)

概要

Morphology and Lexicon Forum (MLF) 2024が下記の内容で開催されます。参加費や事前登録など必要ありませんので、気軽にご参加ください。

タイムテーブルなどの詳しい情報は下記の公式サイトから見ることができます。

Morphology & Lexicon Forum (MLF) Official Site

発表

発表者とタイトルはこちらにも載せておきます。

9月14日(土)

  1. 安田朱里(同志社大学大学院)「英語否定接頭辞un-の分布と特性について」
  2. 柚原一郎(東京都立大学)「日本語の接辞-tariがもたらす諸問題について」
  3. 小原真子(島根大学)「Oxford English Dictionary から見る古英語の転換」
  4. 【招待講演】寺尾康(静岡県立大学)「言い間違い研究からみたレキシコン −言語逸脱データ使用のこれまでとこれから−」

9月15日(日)

  1. 古賀健太郎(青山学院大学)「フランス語の-ble型形容詞における「否定」とそれに準ずる表現」
  2. 納谷亮平(筑波大学)・石田崇(広島修道大学)「英語混成語にみられる等位関係」
  3. 【招待発表】臼杵岳(京都産業大学)「オノマトペから見る心理述語」