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歯切れが悪いのは仕様です。

言語哲学―入門から中級まで

以前見つけましたという報告はしてたんですが↓

  • 言語哲学―入門から中級まで

William G. Lycan(2000)"Philosophy of Language -a contemporary introduction-"の訳本です。
いや、見つけた時点でかなり良い感じだとは思ったんですが…読んでみたところかなりオススメの入門書です。
まずカバーしている範囲です。以前にも少し触れましたが、形式的な意味論、語用論の理論についてかなりのページが割いてあります。また、指示の理論など哲学に関する議論が一緒になっているという点も重要です。言語学サイドの入門書では意味論のテクニカルな解説が続いて、哲学的な背景は詳しく紹介されないことが多いですから。
この本を読むと「そもそもなんでそんな小難しいことをするんだろう」という形式的な(意味の)理論に対する疑問に対する回答、あるいはヒントを得ることができると思います。
また、論の進め方も僕の好きな感じです。一貫して大体、そもそもの問題提起→理論の概説→問題点、反論の提示→応答例という流れで非常に簡潔かつ丁寧にまとめられています。「簡単に」ではないので議論を追うのが大変なこともあるのですが、むしろそこには紹介者としての誠実さを感じました。
言い回しやユーモアの入れ方も好きな感じですね。これは訳者の方々にも感謝するところですが、話が難解にならないところといい、戸田山さんや野矢さんに近いものを感じました。
最もカッコイイ!と思ったのは可能世界の説明のところに出てきた

  • ...私は誰か他の人と結婚していたかもしれない(だとしたらそれは間違いであったことだろう)

非常にさらっと書いてありました(^_^)
その後に続いた

  • また、もし私に秘書がいて、使用人として専属のシェフと殺し屋が数人いたならば、この本ももっと早く書き上げることができただろう。

という文章も気になるところです(笑)
やはり、哲学をがっつり勉強する時間も労力も無いけれど、意外と知っていなければならないことが多い言語学者に最適の書の一つなのではないかと改めて思いました。
「中級まで」なので結構深い議論や新しい議論、最近の傾向なども紹介してくれていますし。