なんか切ない話、とかではありません、念のため。
レビューを書くと言いつつ書いていなかったので…もう結構日も経ってしまったのでかなりうろ覚えで書きますが。なお、プログラムや発表要旨は以下のページから見ることができます。
ちなみに僕は二日目しか聞きに行ってないので二日目の内容についてのみ書きます。一日目も、特に富岡先生と佐野先生の発表は聞きたかったんだけどなあ。あ、発表の概要自体を丁寧にまとめるつもりはないので話を聞いた方以外はほとんど意味不明かもです。ご了承下さい。
1.遠藤 喜雄(神田外語大学)「統語構造地図における情報構造と局所性」
Cinque(の副詞の階層論*1)とRizzi(のLeft Peripheryの話)が核になってるcartographyの研究を日本語からやってみるとどうなるか、みたいな話。
(特にCinque絡み、副詞の話に関しては)個人的にはそこまで細かくfunctional categoryを仮定(分割)する必要があるのかなあ、という気はしていて、心情的にはどちらかというとErnstの方針なんかに共感を覚えるのだけれど、こういうプロジェクトのもとでマクロな地図を書いてみるって仕事も重要だと思う。それにちまちま文句を付けたりして研究が進んでいくわけでもあるし。あと、南の階層論なんかと生成文法のfunctional categoryの理論に平行性や共通点があるってのは以前からちょこちょこ言われてきたような気がするけれど、どうも体系的に研究されることはあまりなかったように思えるので、こういう「プロジェクトとして明確になること」によってやる人が増えて研究が進むってこともあるだろうし。
理論的にはなんというかgeneralized projectionについての考え方が気になるところで、やはりというか藤田耕司センセから突っ込みが入ってたけれど、その場での回答を聞く限りでは僕はいまいちすっきりしなかったなあ。遠藤先生の本やBoeckxをきちんと読めばすっきりするのかな?
2.北川 善久(インディアナ大学)「Wh疑問文における主文現象」
確か月刊言語かなんかにもこれ絡みの記事を書いてたと思うんですけど。prosodyによっては埋め込み文内のWhが主文のスコープをとることがあるよね、だからNishigauchiとかが提唱した統語分析も見直す必要があるんじゃ?という話。
exhaustive readingが出る時と、Whがmatrix scopeを取る時に(NPに)現れるpitchの高さが同じ、ってのは面白かったんですけど、メカニズムとしては別々なんじゃないかなあ、というのが第一印象。これは僕がsyntaxの後にphonological componentの存在を考えてるってところから来るのかもしれないのですが。やっぱりメカニズムは違うけれども、phonological componentの計算の結果として同じぐらいのpitchが実現する、って考えた方が僕にはしっくりくるんですよね。(informational) focus*2に関するprosodyパターンも、特定の部分へのfoculizeの結果として表れるものと、destress givenのようなものの結果として他の(newの)部分が相対的に「下がる」ことによって現れるものは分けた方がすっきりするんじゃないかなあ、とか。質問もしてみたのですが、時間があまりなくてその辺りのモデル全体に関する前提のお話がきちんと聞けなかったのが残念です。Ishihara Shin-ichiroさんがやってるみたいなモデルでは上手くいかないよね、とは仰っててそこは同意だったんですけど。
3.森山 卓郎(京都教育大学)「モダリティの体系について」
反野田(1995)*3。どうも森山先生はこの野田(1995)に対して、野田先生が出した日本語の述部側の階層構造についてのモデル自体がそんなに綺麗にいくわけではないだろう、という点と、とりたて詞の分布がその階層構造とうまく呼応している、というのもうまくいかないだろう、という二点で疑義があるそう。この発表では後者のとりたて詞に関する話が主だったのですが。
森山先生は"reality"という意味論的な概念によってとりたて詞と述部の呼応現象をまとめて取り扱いたいという話でしたが、その前に呼応現象自体をいくつかに分けた方が良いんじゃなかろうか、というのが僕の感想。やっぱり「しか」と否定の関係はagreementに近いような気がするしなあ。
あと、これは日本語のモダリティ研究全般に関して僕が持ってる変な偏見みたいなものなんですけど、なんで(形態)統語論と意味論の分類を一緒にしちゃうんだろう?それがダメだって思う僕が変、というか遅れてるのかな?「モダリティ」とか"epistemic"って概念は純粋に意味論的に定義した方が良いと思うんですが、どうしてそこに「助動詞」とか"inflection"なんて視点を入れちゃうんですかねえ。いや、そういう視点を忘れないことはもちろん大事なんですが(関係は深いわけですし)、モデルの方で、というか理論的に混ぜちゃうと混乱するのではないかと。
4.藤巻 一真(神田外語大学 CLS)「日本語の主語位置のイディオムからの検証」
日本語のガ格句が統語的にどの位置にあるのか、っていうのをイディオムの現象を通して検証しよう、という話。イディオムはinterfaceでは重要なトピックの一つなのでずっと気になってはいつつ、なかなか手が出せていなかったので日本語でこういう研究が増えると本当に助かります。
主語論についての結論としては、基本的にKuroda, Fukuiラインにあるようで「日本語の主格NPはVP内に留まっている場合もある」という感じ*4。TP以上に上がってるっていうポジティブな議論の話は出てこなかったように記憶してるんですが、博士論文にはあるのかな?そろそろ出る予定なんだそうですが、個人的に楽しみにしている博士論文の一つです。
ただ、Miyagawaのスクランブリングの論文を読んだ時も思ったんですが、イディオムの内省判定って結構きついんですよね…まあきつくない判定があるのかって言われるとあれなんですけど。
まとめ
最後の全体でやった議論も面白かったんですけどねーもう細かいところは忘れちゃいました(^^;
僕自身の話としては、神田の人たちにちょこちょこ名前を覚えてもらっていたのが嬉しかったですね。遠くから通ってる甲斐があったというか(笑)あと、報告書を手に入れられたのも嬉しかったです。科研の報告書は結構手に入れにくいですからねえ。長谷川先生と日本語のimperativeの話ができたのも大きかったですね。長谷川先生はどちらかというとargument側の認可に興味の焦点があるようですが、いくつか参考になる話も聞けましたし。
ではではこの辺で。Uriagerekaのtalkの話は気が向いたら書きます。