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歯切れが悪いのは仕様です。

パウル・クレー展「おわらないアトリエ」と作品タイトルとその訳のお話

 ようやく行ってきました!

素晴らしい企画内容とボリュームでした。気になっている方は7/31日(今週末)で終わってしまうのでぜひ足をお運びください。
 同規模、あるいはこれ以上の規模のクレー展はこれからもあるかもしれませんが、ああいう構成でクレーの作品を観ることができる機会が今後あるかどうかわからないような。アンコールに応えて、ってこともあるかもしれませんけれど。
 ところでクレー展は数回目なのですが、今回、僕がクレーの作品が好きなのはクレーの作品の前だと自然に何も考えずにいられる状態になれるからではないかということに思い至りました。何かを集中して観てるのに、分析したり考えたりしない、ってのは僕にとってはなかなか貴重な時間です。

作品タイトルと訳

 さて、そんなことを言いつつやっぱり考えてしまうことはあるわけですが、今回気になったのは作品のタイトルとその訳です(注:何か面白い考察があるわけじゃないよ!)。
 いくつか気になった作品がありましたが、面白かったのは「綱渡り師」というタイトルの作品。

これはクレーが生み出したとされる「油彩転写」を用いた作品で、転写の基になる素描と転写後の二つ、計三つの作品があります(「油彩転写」の解説と三つの作品を上のリンク先で見ることができます)。
 んで、上のページからはわからないのですが、クレーが付けたドイツ語のタイトルは以下のようになっていました(カッコ内は作品番号)。

  1. 素描(215):"Seiltänzer"
  2. 油彩転写1(121):"Der Seiltänzer"
  3. 油彩転写2(138):"Seiltänzer"

冠詞の有無が異なっています。ちなみに英訳タイトルは"(The) tightrope walker"で、冠詞の有無はドイツ語のものと同じでした。
 館内のスタッフさんに聞いたところ、作品番号はクレー自身が振ったもので作品が制作された順番とは必ずしも一致しない、とのことでした。実際素描の方が作品番号は大きいですね。
 しかし順番抜きに考えても、同じ素描から転写した作品のタイトルで冠詞の有無が異なっているというのは面白いな、と。もちろん特に意味は無いのかもしれませんが、ドイツ語母語話者だと作品自体の鑑賞にもこの差がちょっと影響を与えたりしないかな。そして、日本語タイトルは三作品とも「綱渡り師」で同一になっているわけです。もしかしたら、訳した方も悩んで考慮した上で同一タイトルにしたのかなあ、なんて。
 僕は絵画に疎いので作品タイトルがどれぐらいの重みを持っているのか全然わからないのですが、文書の翻訳と違って極端なパラフレーズができなかったり説明を付け足したりできないという点で、作品タイトルの翻訳というのは難しそうですね。
 他にも気になったタイトルの訳はいくつかありましたが、とりあえず今回はこの辺りで。