誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

日本言語学会第145回大会雑感(2):研究発表とか

 久しぶりに個別発表の感想など記録しておこうと思います。気力もあまり無いので各発表内容の詳しい説明はしません、すみません。あと殴り書きなので用語なんかも思いつくままです。
 あ、ちなみに(3)は無いですよ。これで終わり。
 今回は珍しくほとんど生成文法部屋にいました。

研究発表

藤井友比呂・瀧田健介「理由副詞類の生成位置とコントロール節の修飾について」

 コントロールの不定詞節を修飾しているwhy付加詞は理由ではなく「手段」を尋ねるものであり、理由のwhyがCP Specに基底生成されるというCP付加詞仮説への反例にはならない、とする。
 やや内容が盛りだくさんにも感じたが、議論は説得的で構成もわかりやすかった。whyを理由と手段に分け、言語や語彙項目ごとに両方尋ねられるかが違うという話は面白くまた直感的には納得がいくものだったが、質疑でも出たようにそれらがきちんと意味論的にも区別できるのかどうかは検討が必要だと感じた。
 また、下手な質問の仕方をしてしまったのだが、節がコントロール構造になっているかどうか(finite or non-finite)と、その節を構成する述語の形態(finite or infinitive)は言語によってずれている可能性があるので、そこも追求すると面白いのではないかと感じた。最近定性に興味があるので気になるところ。

後藤亘「併合とラベルを巡る覚え書き」

 併合(merge)の際のラベル付け(labeling)を厳密に規定することによって、いくつかの制約や条件がいらなくなるとする。
 Linguaにこれから出るというChomsky(2012)を読んでいないので難しかったが、ラベル付けの厳密化の話はありそうだなという印象。というかラベルの話は前から悩みどころだったので参考になった。
 質問もしたのだけれど、イントネーションに関する現象に分析のところでイントネーション素性を持った主要部Kを仮定し、対照的な{XP, YP}構造がイントネーションを伴う句として単一化(unification)されKのラベルを付与されるという分析を提案しているところが気になった。単一化がもしmergeなどと並んて独立した操作やプロセスとして持ち込まれるならかなり強い主張だと思うので、理論的にも経験的にも強いサポートが必要になりそう。逆にイントネーションだけでなく他の現象でも単一化が起こるのであれば面白い予測が出てくるのかもしれない。
 root CPのラベル付けが免除されるという話も気になるところ。spell outの話が出てきた頃から理論的にはずっと問題だったと思うのだけれど、spell out/transferのタイミングの問題をクリアできればこういう風な扱いにした方が良いような気もしている。speech actレベルの主要部を考えてごにょごにょするような方法もあるかもしれないけどどうなのかなあ。

谷川晋一「素性継承からの倒置への接近」

 久しぶりに谷川さんの発表を聞く。
 英語の場所句倒置(locative inversion)とPreposing around Beへの詳細な移動分析。Topic主要部からTへのφ素性放出に随意性を持たせることによって倒置と話題化の両パターンが得られるとする。
 英語のA’移動とか一番苦手なところなので質問もせず…随意性をどう扱うのかというのはgenerative syntaxではずっと問題なんだと思うんだけれど、こういうある操作に随意性を持たせることで数パターンの派生が出てくるというやり方は一つの手かなと感じた。
 A/A’位置への同時移動は自分で使う勇気がなかなか出ないのだけれど、string vacuous movementをうまく(?)取り扱えるっていうのは利点の一つなのかなあ。
 あとNegative Inversionにもtopicalityって関係してたっけとか余計なこと考えてた。

黒木邦彦「上甑島瀬上方言における清濁の対立」

 裏であった由本先生の複合動詞の発表とものすごく迷ったのだけれどこちらを聞きに行くことに。音声学・音韻論にはそれほど詳しくないために完全に勉強させていただきます状態。聴衆が多くてすごかった。黒木さん元々色々やるのにフィールドワークとか音声・音韻の研究もできるとかすごい。機器の不具合が時間を削ってしまったのが大変もったいなかった。
 内容はうまくまとめられないので予稿集参照(おい
 音韻解釈(音素指定)からライマンの法則の適用範囲が方言であることによって異なるというところまで展開する議論は魅力的だと思ったのだけれど、質疑でもまだそこまでは言えないのではという反応だった印象。
 形態論研究者としては接辞の種類とか複合語の種類とかで連濁の現れ方が違ったら面白いなーと勝手な妄想。あと発表後にこの方言の変格活用のパラダイムも教えてもらって大変感謝。

MAKI, Hideki & Dónall P. Ó BAOILL "The genitive case in modern Ulster Irish"

 発表は英語。英語で質疑したかったのだけれど流れで質疑は日本語になってしまってちょっぴり残念。まあお前の英語のトレーニングの場じゃないんだよっていうね。
 格の分布の記述から(ある特定の=属格とか)形態格を持つ句はC’に付加できない、という一般化を導くもの。
 Irishはなんか色々縁があって少しずつ知識が増えてきたのだけれどやっぱり面白い。属格か対格かでwhの可否が違うとかうらやましいというか。まあMcCloskyの研究が面白いというのが背景の何割かを占めてるんだろうけど。
 質問もしたのだけれど、形態格一般の話にするのであればやっぱり属格/対格/(主格)以外の格でも検証できればなあ、というところ。発表中に出てきたfull interpretationはCaseの種類までは見てないんじゃないかっていう話はfeature: valueの定式化でいくとありそうな話だと思ったけれど、PF屋としては形態格がどう具現するのかのメカニズムが気になる。

ポスター発表

 ワークショップの延長戦と昼食、あと燃え尽き具合の関係で足を運ばず。残念。

シンポジウム「文構造はどこまで意味を表しているのか」

 ワークショップで燃え尽きていたため(ry
 一応参加はしたのだけれど細かくレビューするほどの気力は無いです。すみません。気が向いたら書くかなあ(こう言って書いたためしがない)。
 個人的にはこういうテーマだったら形式意味論の専門家を一人入れた方が…と思った。田窪先生や上山先生がメンバーにいるのにそうなっていないということは検討の上、ということなんだろうけど、日本の学会でのシンポジウムで形式意味論の話が少なすぎるように感じる。よくかなり初歩のところだけを取り上げて形式意味論ダメみたいなのも見かけるが、豊かな研究領域だと思うんだよな…
 田窪先生の仕切り良いわー