誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

「ウェアラブル」なウェアたち

 発表されるたびにツッコミが入っている「元来「着る/身に付ける」ことができるもの」を元にした「ウェアラブル」デバイスの数々ですが、なんか召喚いただいたようなので

ちょっとだけ書いてみます。文献を調べてないので、そこまで専門的な解説はないです。もっと例が増えると面白いので、開発の進展に期待しています。

 僕が最初に出会った例は「ウェアラブルグラス」でしょうか。

ウェアラブルグラスはamazonにもカテゴリーがあります。

 次は「ウェアラブルブラ」でしょうか。

これ、メーカーのサイトとか紹介ブログではなかなか「ウェアラブルブラ」という語は見つけられませんでした。どうもテレビで紹介されたとかなんとか。Yahooのキーワード検索ランキングに入っていたという記録もあるので、語自体は結構使われたようです。

 そして、今回の「ウェアラブルシャツ」の登場というわけですね。

グラスぐらいだとまだガジェット感がありますが、シャツだともろ「ウェアする」ものの代表だと思うので、違和感を覚える人も多そうですね。おもしろいです。

どう考える?

 さて、以前ついったーでウェアラブルブラを見て

なんてことを言いました。借用の際に意味・用法が限定化されるというのは一般的にあることです*1(ただ和語/漢語の既存語との棲み分けがあまりなさそうだということを考慮する必要があるかもしれません)。
 他にも「ウェアラブル」は「ウェアラブル機器/端末/コンピュータ」の短縮形であるという分析も考えられると思いますが、短縮であることを示すのはけっこう大変そうかな。「ウェアラブル機器持ってる?」とかから短縮させて「ウェアラブル持ってる?」とか言えるなら可能性はあるでしょうか。
 さて、「ウェアラブル」自体は活用しませんし、アクセントも複合語アクセントになるようなので(下記のアクセントは僕の直観)、形態的には名詞かなと思います。意味的には修飾関係を作ると思うのですが。

  • 単独の場合の語アクセント:ウェアラ]ブル(な)
  • 複合語の場合の語アクセント:ウェアラブルシャ]ツ

日本語の形容(動)詞が名詞修飾をする場合に英語のような関係節/連体節を介さない修飾構造(例:red car)があるのか、「赤い車/きれいな部屋」ってのは連体節構造を持っているのかってのは議論があって(山木戸 (2013)など)、こういう外来語がそういう文法構造まで引き連れてきてくれると面白いのですが、どうも普通の複合語っぽいですね。
 もう一つ語形成として面白いのは"-able"という接辞が絡んでいることでしょうか。
 接辞の借用に冠してはたとえば、

  • "-ing":「ウォーミングアップ/ウォームアップ」のように両方可能な場合に加えて、「??クーリングダウン/クールダウン」のように一方が難しい語もある

とか色々面白いことがあります。英語だと他にも形容詞的受動の"-ed"とか複数の"s"辺りが気になるところでしょうか。
 さて、-ableは上記の(屈折)接辞と違っていわゆる派生接辞なのですが、受動化っぽいことをするという一種「文法的な」性質も持っています。"-able"と「-可能」の対照研究はどこかで読んだ気がするなあ(おい)。日本語に借用されている「-aブル」系の外来語を集めて見てみるのも面白いかもしれませんね(例:ポータブル、ディスポーザブル、…)。

参考文献

山木戸浩子 (2013)「日本語における形容詞活用語尾の本質について」遠藤喜雄(編)『世界に向けた日本語研究』, 219-255, 開拓社.

*1:そもそも名詞としての「ウェア」からすでに「衣服」限定になっていると思います(例:スポーツウェア)。最近だと「アイウェア」なんて言い方も結構見かけますけれど。