年度末ですし以下のツイートを見かけたので、そういう授業に携わっている身として少し現状について少し書いてみたいと思います。
文系って形式も内容もテキトーで単位取れるレポートしかずっと課されないし、それで「じゃあラスト論文書いて。形式守って。厳密じゃないと卒業させません」ってのはカリキュラム的にどうなんと思わなくもない。1年のときにレポート論文の書き方については叩き込むべきなのでは。
「なんでそこまで大学の教員が見なあかんねん。大学生やろ自分でしろ」と言いたい気持ちはわかるんですが、ぶっちゃけ地方国立文系ですらこれだと他の大学なんかもっと酷いんじゃないのと思う。
現状?
人文系についても、アカデミックライティング教育の必要性・重要性に対する認識が高まり、実際の取り組みも増えてきている、というのが印象です。この数年でアカデミックライティング、アカデミックスキルに関する教科書がどんどん出版されていますし(そろそろ誰か広範囲の教科書分析してほしい…)、最近だと大阪大学で教科書&マニュアルが公開されてちょっと話題になってましたね。
他にも、"site:ac.jp"という条件を付けて「レポートの書き方」「卒論の書き方」などをググれば、多くのマニュアルを読むことができます。ただ確かに、ざっと見ると理工系のものが多いですかね。
人文系の教員はどう関わっているか
人文系の教員は(特に日本語・日本文学・国語教育などの研究関係者だと)こういう授業の担当者として関わっている方も多いのではないかと思います。僕の周囲だと日本語教育の専門家が、留学生(非日本語母語話者)へのライティング教育と合わせて担当している場合もけっこうあるようです。ちなみに非母語話者向けの教科書は「母語話者ならお察し下さい」みたいなことができず、資料や説明が明確なので母語話者向けに書かれたものでなくても、有用なことが多いです。実際、僕も自分の授業で使っています。日本語教育の専門家によるもので、両方を対象に書かれたものとしてはたとえば。
ピアで学ぶ大学生・留学生の日本語コミュニケーション―プレゼンテーションとライティング
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どんな授業を持っているか
さて、僕はどんな授業を持っているかというと、日本語母語話者の初年次(学部1年生)対象の日本語の言語スキルに関する授業を担当しています。実は筑波大学にはこの種類の授業がかなり以前からあって、名前を「国語」と言います。授業ではスピーチやプレゼンについてやることもありますが、重視しているのはやはりライティングですね。学科によって必修のところもありますし、いわゆる自由科目として取れる授業も担当しています。
「国語1」「国語2」とレベル別になっているのですが、それぞれの授業内容はだいたい以下の通りです(シラバスから一部抜粋)。どちらかというと、国語1が文章作成の形式面、国語2が内容面に重きを置いている、という感じですね。
国語1(全10回)
- 目的によって異なる文書・スピーチの種類
- メールの種類と特徴
- レイアウト(1):下書きとしてのマップとアウトライン
- レイアウト(2):段落と主題文
- レポートを整える(1):全体の構成(段落の並べ方)
- レポートを整える(2):論文の文体・タイトル・体裁
- コピペレポートはなぜダメか
国語2(全10回)
- 引用の技術
- 研究のプロセスと議論の方法
- モノ(本や資料)や情報(意見や議論や基礎知識)を探す
- 論じる・批判する(1):一般化と仮説
- 論じる・批判する(2):批判・異論・反例
- テーマ・問題設定の方法
全10回とあるのに項目が10に満たないのは、数回に渡ってやる項目もあるからです。国語1ではパラグラフライティング、国語2では議論・批判のところをじっくりやるようにしています。学科によっては国語1までが必修のところもありますので、そういう場合は国語2の内容も混ぜたりします(たとえば引用の技術とか)。あと、今年度はプレゼンの方法と資料の作り方も少し入れた授業もあります。
何が難しいか
さて、何が難しいかって、最大限色々な分野で活用できるような内容にしているつもりなのですが、そう気を配っても、やはり分野間の違いって色々あるのですよね。
ちなみに僕が担当している授業の受講生はだいたい、人文、医学、生物資源、体育専門の学生で、自由科目の方は理工系(応用理工とか)の他、図書館情報、心理、芸術専門などからも参加者がいます。
人文に限っても、哲学と史学と考古学・民俗学と言語学では、引用の方法や参考文献の書き方などの形式的なところ以外にも、たとえば「仮説」をどう研究上に位置付けるか、資料や事実をどのように扱うか、など色々違います。もちろん、それらの詳しいところは専門の授業でやって下さい、ということになるのですが、基礎としてはある程度触れないわけにもいかず、かといって全て「分野によって違います」では受講者も混乱しますし(実際言われたことあり)、毎年難しさを感じています。その分、僕自身色々勉強になるんですけどね。
最近は、むしろ積極的に人文系の受講生に対して「理工系ではこう」、あるいはその逆の話をするようにもしています。せっかく総合大学で、こんな授業に出ることになったわけですし。推薦書は、理工系・人文系向けのものを、どの授業でも複数紹介するようにしています。どれか一冊、と言われたら今のところはやっぱり木下是雄『理科系の作文技術』かなあ。最近は良い教科書も多いので迷うところですね。
おわりに
こういう難しさを体験して思うことは、アカデミックライティングの訓練は、こういう初年次で基礎をやったら、それぞれ専門の授業でのトレーニングにうまく橋渡しをして、さらにゼミなど実際の研究・論文執筆の段階へなるべく断絶がなくつなげていくことが重要なのではないかということです。
それなら最初からその学部・学科だけで純粋培養した方が早いという案もあるかと思いますが(実際そのようにやっているところもけっこうあるのではないでしょうか)、少なくとも隣接領域、あるいは専門的には関わらない研究領域の人たちがどのように研究を行っていて、どのように(どのような)論文を書いているのか、というのを学部時代に体験できるというのは意外に重要なんではないかと思うのですがどうでしょうか。その分、受講生は大変でしょうけどね。
僕自身来年度も色々悩みながら試行錯誤しながらということになりそうです。
追記(2015/01/16):推薦書をいくつか
ついったーで推薦書ってどんなの、っていう話が出ましたので、一部紹介しておきます。ちなみに、手に入れやすさや値段なども考慮しています。
アカデミックライティング全般
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- 作者: 野矢茂樹
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引用
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学生・研究者のための 使える!PowerPointスライドデザイン 伝わるプレゼン1つの原理と3つの技術
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