誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

【便乗】日本語の活用と「過去形」(解説なし、宣伝のみ)

 どうも、ラッスンゴレライを思い出そうとしてもどうしてもあるある探検隊が出てきてしまうぐらいにはおっさんの日本語の研究者です。
 さて、下記のエントリのタイトルと内容が最近自分がやっていることと近くて一瞬どきっとしてしまいました。この辺りの話、見方によっては古典的も古典的な問題で、書き出すときりがないのですが(関係する話や概念・用語を整理するだけでたいへん)、一部現代的にも色々面白い問題を含んでいると思ってやっています。というか活用研究などしている以上、いつまでも逃げてばかりはいられず…

ちょうど良いので?便乗して宣伝を二つばかり。

テンス・アスペクトの論文集を作っています

 昨年度の日本語文法学会でやったパネルセッションもその絡みだったのですが、

テンス・アスペクトをテーマにした論文集(全4巻)を作っています。私も編者の一人になっております。ざっくり、「する」「している」「した」「言語教育・習得」でそれぞれ1巻ずつのなかなか豪華なものに仕上がる予定ですのでお楽しみに。

タについて発表します

 で、タについては私も論文を準備中で形態論周りの話題について書いているのですが、一部のまとめも兼ねて関東日本語談話会で発表します。まだ公式には告知とか出ていないと思いますけど。
 日時は5/9(土)ですね。タイトルは「タ形に関する形態論的・理論的問題の整理と検討」を予定しています。申込要旨を下記に載せておきます。

題目:タ形に関する形態論的・理論的問題の整理と検討
氏名:田川拓海
要旨:
 本発表では、現代日本語のいわゆるタ形に関する形態(統語)論的問題、特に1) タの範疇 (category)は何か、2) 動詞(語幹)部分とタの統語的・形態的関係はどのようになっているか、について、先行研究と関連現象の整理・検討を行う。また、特に2)が形式的な理論的形態論研究において興味深い問題を提起することを示す。
 先行研究としては、語アクセントと韻律句形成に関する現象をもとにタの範疇は “particle(≒助詞)”であり動詞部分から比較的独立していると主張しているOshima (2014)と、その分析に対する批判を行っているNishiyama (2015)を取り上げ、タの独立性(範疇)の問題とタに前接する動詞の形態論的サイズ(語根 (root)接続か語幹接続か(cf. Shibatani (1990)))の問題が独立して取り扱える可能性について検討する。また、Kitagawa (1986)の接辞上昇 (affix raising)を用いた統語的分析、Nishiyama (2010, 2015)の韻律外性 (extrametricality)を用いた音韻的分析が(現代の)理論的形態論研究にどのように位置付けられるのか整理する。
 この形態論における要素の独立性の問題は、分散形態論 (Distributed Morphology)等、統語論と形態論の関係を重視する枠組みにおいて注目を集めてきている(たとえば“Cycle-Sensitive Allomorphy”の問題(Tagawa (to appear)))が、タ形には A) 語アクセントの観点から見ると動詞(語幹)部分とタは比較的独立しているように見える一方、B) 音便の観点から見ると、音便のタイプが動詞(語幹)部分の語末子音によって決定されることから、動詞(語幹)部分とタは“近い”関係にあると考えなければならない(田川 (2012))、という一見相反した結論が導き出されることを主張する。これは、従来の局所性 (locality)を軸にした形態論分析では十分ではなく、局所性と語性 (wordhood)の関係をより厳密に捉え直す必要があることを示している。
 また、これらの議論は、形式的な理論研究や理論的形態論の研究の枠をこえて、日本語研究における「語」「語幹」「接辞」「助(動)詞」等の形態論あるいは文法論上の概念の再整理にもつながるものと考えられる。
【参照文献】

  • Kitagawa, Yoshihisa (1986) Subjects in Japanese and English. Ph.D. dissertation, University of Massachusetts at Amherst.
  • Nishiyama, Kunio (2010) Penultimate accent in Japanese predicates and verb-noun distinction. Lingua 120: 2353-2366.
  • Nishiyama, Kunio (2015) “The morphological structure of Japanese verbs: Root or ren’yoo?” unpublished manuscript.
  • Oshima, David Y. (2014) “On the morphological status of -te, -ta, and related forms in Japanese: Evidence from accent placement,” Journal of East Asian Linguistics 23: 233-265.
  • Shibatani, Masayoshi (1990) The Languages of Japan. Cambridge: Cambridge University Press.
  • 田川拓海 (2012)「分散形態論を用いた動詞活用の研究に向けて―連用形の分析における形態統語論的問題―」三原健一・仁田義雄(編)『活用論の前線』pp.191-216, くろしお出版.
  • Tagawa, Takumi (to appear) [Review] Universals in Comparative Morphology: Suppletion, Superlatives, and the Structure of Words. English Linguistics.