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歯切れが悪いのは仕様です。

高校地理における「(ウラル・)アルタイ語族」の取り扱いについてのメモ

追記(2018/02/02)

 「琉球(諸)語」について簡単な補足を書きました。

はじめに

 先日のセンター試験の地理に出たムーミンに関する問題は大きく話題になって,大阪大学大学院言語文化研究科スウェーデン語研究室から声明が出されるような事態にまでなりましたが,

ついったー上などでこの話題についてやりとりする時に「アルタイ語族」という名前がそこそこ出てきたのが言語学の研究者としては気になりましたので,この名称が現在も高校地理の関係書籍で使用されているのか少し調べてみました。とりあえずここでは調べたことのメモだけ書いておきます。
 ちなみに,上記の阪大のページと合わせて下記の記事もおすすめしておきます。

現在の(おそらく)標準的な見解

 研究者によっていろいろ見解はあるでしょうけれど,現在言語学概論等の授業で簡単に紹介するのであれば,

  1. 「ウラル・アルタイ」というくくり方はしない
  2. 「ウラル語族」は系統関係が認められている
  3. 「アルタイ語族」は系統関係がはっきりするところまでは行っておらず,「アルタイ諸語」と呼ばれる
  4. 日本語と系統関係がはっきりしているのは琉球諸語のみ(琉球諸語を独立した言語グループと考えない場合は「孤立した言語」扱い)

という辺りでしょうか。
 ちなみに,いつも紹介している黒田龍之助『はじめての言語学』でも,第5章に「3—《ウラル・アルタイ語族》なんてない」という節が出てきます(ちょっと表現がきついです…)。

 たとえばアルタイ諸語というものがある。諸語というのは,語族の関係がいまいち証明できていない言語のグループである。(中略)明らかに似ていて親戚だろうというのもあるが,一方ではっきりしないものもある。だから慎重に考えて諸語と呼んでいるのだ。
(中略)
 現在の言語学では,《ウラル・アルタイ語族》は認めていない。(中略)古い本ならともかく,いまどき《ウラル・アルタイ語族》なんて書いてあるものがあったら,次の二つのうちのどちらかである。不勉強で新しい学説を知らない。またはすでにイっちゃっている。
(黒田龍之助 (2004)『はじめての言語学』講談社. pp.194-195)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

高校地理関係書籍の記述

 では,高校地理の用語集等に出てくる記述を見てみましょう。
 網羅的な調査ではありませんし,教科書は未チェックです。書店等で手に入りやすいものをいくつかさっと見ただけですので,他にもあるかもしれません。
 まずは山川の用語集。「アルタイ語族(アルタイ諸語)」で立項があります。

地理用語集―A・B共用

地理用語集―A・B共用

アルタイ語族(アルタイ諸語)
東アジアからトルコまで広がる言語集団。モンゴル語派(モンゴル語・ブリヤート語など),テュルク語派(トルコ語派),ツングース語派(満州語・エベンキ語など)からなる。ウラル語族との関連性が認められなくなり,アルタイ諸語と表記されることが多くなった
(地理用語研究会編 (2014)『地理用語集』山川出版社. p.188,強調はdlit)

おお,ちゃんと言及がありますね。
 次に解説書2冊。

新版 もういちど読む 山川地理

新版 もういちど読む 山川地理

言語はその系統をもとに,インド・ヨーロッパ語族,ウラル・アルタイ語族,北アフリカ・西アジア語族,アフリカ語族,シナ・チベット語族,マレー・ポリネシア語族,オーストラリア語族などに分類されているが,正確な系統分類は完成していない
(田邊裕 (2017)『もういちど読む山川地理』山川出版社. pp.189-190,強調はdlit)

あれ,同じ山川でも違いますね。ただ解説書なので「語族」「諸語」の使い分けを単純化したという可能性はありそうです。ちなみに,索引に「ウラル・アルタイ語族」がリストされていました。
 下記の本は索引には「ウラル語族」だけで,

カラー版 忘れてしまった高校の地理を復習する本 (中経出版)

カラー版 忘れてしまった高校の地理を復習する本 (中経出版)

 日本語は,モンゴル語・トルコ語などとともにアジア系のアルタイ語族に含まれているとされてきましたが,さまざまな異説もあります
(中略)
 なお,以前は「ウラル=アルタイ語族」という言い方がありましたが,現在では両語族の類縁関係は否定されています
(山岡信幸 (2012)『忘れてしまった高校の地理を復習する本』中経出版. p.53,強調はdlit)

ウラル・アルタイ語族についてははっきり否定していますが,アルタイ語族の存在は前提にしているように読めます。また,日本語の系統についてはちょっと古い言い方な気もします。

おわりに

 印象としては,もっと調べてみると本によってスタンスや記述がけっこうばらついてそうだなあというところです(ただ言語学や日本語学関係の本でもたまに微妙な記述を見かけるという話もあります)。
 ちなみに,高校地理や高校の教育を非難するというような目的で書いたわけではありません。
 学問の成果をどれぐらい,どのような形・タイミングで教育に反映させるかというのはなかなか簡単には一般化できない難しい課題だと思います(こういう内容だと反映させやすそうな気がしますがどうなんでしょう。たとえば,生物の方の分類に関する新しい知見はどんな感じで取り入れられていくのでしょうか)。
 むしろ,「これだから学校教育ってやつは…」って考えたり言ったりする前に,まず事実・実態を調べた方が良いのではないかと考えて書きました。
 どなたか教科書も調べてくれると嬉しいです。

追記(2018/01/21)

 DG-Lawさんが教科書について詳しく調べてくれました。

やはりばらつきがあるようですが,思いのほか「諸語」も使われているようです。しかし日本史の用語集は…