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歯切れが悪いのは仕様です。

大学の授業に「もぐる」こと

下記の記事で紹介されている事例だが,その大学のシステムだけでなく,個別の授業で採用されている方法といったかなり細かいことまで調べないと,なんとも評価はできないと思う。

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この記事への反応としていくつか見られる「大学による」ということなのだが,こういう「○○による」という話はくどいぐらいにはっきり(そして具体的に)言い続ける方が良いと思うので簡単に書いておく。

まず大学によるという話で言うと,私の勤務先の総合大学(の私が知っている範囲)では,上記の記事で紹介されているような厳しい出席管理はされていない(そもそも教室にカードリーダーがない)。少なくとも大学や学部レベルでそのような要請や推奨はない。特に確認はしないが,私の講義の授業にも,たまに「モグリ」の学生はいるようである。

次に授業によるという話。たとえば私の授業に関して言うと,専門の講義の授業であれば問題はないが,演習の授業だと受講生の発表のハンドアウトが足りないというような問題が起こるかもしれない。あとコンピュータや実験機器を使うような授業,フィールドワークやインタビューの実習の授業で予定されていない受講生が増えると安全面等いろいろな面で問題があるだろう。

最後に,教員によるという話がある。大学や組織,授業の性質にもよるが,大学の授業の運営方法はかなり担当教員による裁量が大きい。以前非常勤で行っていた大学で教室にカードリーダーが設置されているところがあって,試しに出席を取るのに使ってみたことがある。実感したのは代返が簡単にできてしまうシステムではないかということだったが,あれを厳しく運用すれば,今回話題になっている授業のようなことができただろう。ただ,カードリーダーによる管理というところがインパクトがあったのかもしれないが,そうでなくても授業に知らない受講生が入り込んでいたら注意する教員は昔も今もいるのではないか。それは授業内容に理由があるかもしれないし,教員のポリシーや好みによるかもしれない。

この話に出てきている大学や授業(の仕組み)の良し悪しに評価を下す前に,こういうことについても考えてもらえると,大学関係者としては嬉しい。

授業を担当する側としては,ある程度継続的に参加したいなら,聴講であっても事前に言ってもらえると助かるなと思う。聴講生がいることが分かっていると,(同じ大学に在籍していれば)履修していなくてもLMS(学習管理システム)に登録することで授業の資料が簡単に配付できたり,教室変更や休講の連絡がしやすくなったりする。はっきり聞いてしまうと断られるんじゃないかという不安とか,そもそもめんどくさいという気持ちもよくわかるんだけどね。

そういえば,さいきんはLMSで授業の資料が配付されることが多いと思うのだが,紙の資料を配付する方法と比べて「もぐる」のが難しくなってしまっているのではないだろうか。

追記

書き忘れていた。上記の記事への反応として,「自分で勉強しろ」というのが複数あったのが少し気になった。確かに,大学で学ぶ内容には人にもよるが独学でかなりの程度いけるものもあり,良い大学であればそのための環境もかなり整備されている(余談だが,さいきんは大学図書館で学習や研究の総合的なサポーターとしての役割・機能に力を入れているところもあるので,いろいろ相談してみると良い)。自分で学ぶ姿勢が重要というのもその通りである。一方で,独学では容易にたどり着けないような話や世界に(不意に)接することができるのが授業の良いところでもある。また,自身である程度学んでから授業に臨むとそれ以前とは違ったレベルで理解が進むというようなことがある。在籍している人は授業や教員と独学できる環境のどちらもうまく使ってほしい。