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歯切れが悪いのは仕様です。

『日本語文法』に愚痴命令文の研究ノートが出ました

『日本語文法』は日本語文法学会の査読誌です。正式な題目は「独話に現れる愚痴命令文と反事実性」,掲載されたのは19巻2号です。目次はくろしお出版のページをご覧下さい。

www.9640.jp

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待ち合わせに遅れてきた友だちを遠くに発見した時に「もっと早く来いよ…」とつぶやく,ようなタイプの命令文の記述と分析案の提示を行っています。命令文というのは基本的に聞き手の未来(の予定)に干渉するというのが特徴なので,すでに確定していることがらについて,しかも独り言で使える命令文があるというのは不思議なのですね(上の例で言うと,この友だちは発話時点ですでに「もっと早く来る」ことを実現することはできなくなっている)。

「愚痴命令文」は私の命名で,正直査読で考え直せと言われるかと思っていたのですがそのまま通ってほっとしました。意味論的には,ノートの中でも触れている「反事実命令文 (counterfactual imperatives)」ではないかというのが重要で,この名称も気に入っていたのですが,こちらは残念ながら先に使っている文献(オランダ語の分析)がありました。文法的には,このタイプの命令文ではいわゆる終助詞の「よ」が(ほぼ)外せないというのが面白いところです。

今回は命令文の分析にフォーカスしましたが,独り言研究自体は,Twitterを対象にした言語学的研究ともつながるのではないかと考えています。ただこの辺りの研究成果が出せるのはいつになることか…

今回良かったなと思うのは,査読の助言によって,議論や構成等が明らかに改善したことです。私のこれまでの被査読の体験ではだいたい良いか悪いかがはっきりしていて,どちらにせよあまり大きな修正がないことが多かったのですが,今回は違いました。修正はなかなか苦労しましたが,査読によって論文の質が上がることも査読制の良いところだと思いますので,自身がその対象になったことを嬉しく思います。