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歯切れが悪いのは仕様です。

定延利之氏の「偉い大人」の話し方に関する記述(小池百合子氏の話し方の話)

下記の記事で紹介されているNatsuko Nakagawaさんのツイートを見てそういえば定延利之氏の著書に言及があったかもと思ったのでごく簡単に調べてみました。

nomolk.hatenablog.com

調べたのは下記の本です。「これにあったかも」と思って調べたらあったという流れなので,定延氏のほかの本や論文にもっと詳しい記述や分析が載っているかもしれませんが未調査です。

日本語社会 のぞきキャラくり (Word-Wise Book)

日本語社会 のぞきキャラくり (Word-Wise Book)

該当箇所は「第二章 キャラクタはどこに宿るか?」の「第五節 キャラクタはつっかえ方に宿る」です。

この現象については,まずアナウンサーの発話を紹介,政治家も似たような話し方をすると指摘し,「とぎれ延伸型のつっかえ」と呼んでいます。つまり,このタイプの長母音要素はそもそも「フィラー」ではないと捉えていると思われます。

「ま,住まいのための,おー原則それから」
これは,高校生向けのテレビ番組(中略)の中で,司会役の男性アナウンサーが発した一節である。
(中略)
「おー」を,「えー」や「んー」あるいは「えーと」「あのー」などと同じような,考えている最中に発せられることば(dlit注:これが「フィラー(の一部)」)と片付けるわけにはいかない。
(定延 (2011): 88)

どういう場面,キャラクターが関係するのかということについては,下記のように指摘されています。少し長いですが引用します。

ただ,公式の場でありさえすれば単語末や文節末に必ず出てくるというものでもない。さい銭をなぜ盗んだのかと警察官に問いただされ,小学生が「悪いとは,あー思ったんですが,さい銭箱を,おー覗くと」のように答えれば,誠意がない,おちょくっているのかということになって,説教だけでは済まなくなってくるかもしれない。というのは,この小学生は明らかに《大人》キャラで,別人としてしゃべっているからである。とぎれ延伸型のつっかえは《大人》の物言いである。
また,《大人》なら必ず現れるというものでもない。重役会議に連れてこられた,借りてきたネコ状態の新卒ヒラ社員が空気をすすりつつ「[スー] では,ご説明させていただきます。[スシュー]」などと発言し,続けて「大連会談の,おー」とやるのはおかしい。これは《大人》の中でも,それなりの権威を持った大人だけの技である。いま私はこの話し手を便宜的に《権威者》と呼んでいる。
(定延 (2011): 88,強調はdlit)

この本は以前書いた役割語関係の読書案内でも紹介・おすすめしましたが,専門書ではないので言語学,日本語学の知識がなくても楽しく読めると思います。ほかにも面白い現象がたくさん取り上げられていますよ。

dlit.hatenadiary.com