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歯切れが悪いのは仕様です。

東京オリンピック開始1週間のテレビ番組(主にNHK)雑感

はじめに

オリンピックが開始してから1週間のNHKの番組がホスト国のメインの放送としてはあまりにもひどいと思ったので簡単に記録しておきます。なお,NHKの番組にずっと張り付いているわけではなく,仕事・家事育児の合間に見ているだけですので私が見ていないところで下記で述べるようなこととは違う放送が十分行われている可能性はあります。また,民放で良い番組が放送されている可能性もあります。

なお,私はスポーツは好きだけど今回の東京オリンピック・パラリンピックには反対という立場ですので,厳しめのバイアスがかかっている可能性はあります。

また始まった直後にこんなことを書きましたので

dlit.hatenadiary.com

もともと良い印象は持たないまま見ていたということもあります。この時,もうオリンピックについては書かないと書いているのですけれど,さすがにひどさが予想を超えてきたので…

ところでなんでひどいひどい言いながら結局見てるんだと不思議に思われる方もいるでしょう。一番の理由はテレビ放送そのものとその周辺のディスコースを自分で体験しておいた方が良いんじゃないかということです。私はCDA (Critical Discourse Analysis)が専門というわけでもないですし,スポーツ関係の言語現象も自身の研究対象になることはそれほどないのですけれど(たださいきんのテーマの1つである外来語研究には関連します),主査や副査を担当する学位論文(主に卒論)のテーマとしてスポーツと言語の関わりが出てくることが定期的にあります。新聞等は後でコーパスなどのテキストデータを見れば良いことが多いのですけれどテレビは後で実際のデータを振り返るのが大変なこともあるんですよね。

こういう放送があったという記録

どちらもTwitterではその時に簡単に触れています。

体操のバイルス選手に関する発言(2021/07/31)

体操女子でアメリカのバイルス選手がメンタルヘルスを理由に棄権しかなり話題にもなっていました。

www.bbc.com

途中からぱっと見たので前の文脈がよく分からなかったのですが,体操女子の何かの競技終了後(女子総合個人?),スタジオにいる(おそらく)NHKの人から「バイルス選手が棄権したので他の選手は目の色を変えてたんじゃないですか」といった内容の発言がありました。細かいところは違っているかもしれませんが,「目の色を変える」という表現が使われたのは確実です。その表現にぎょっとしてしっかり見始めたくらいです。

競技会場の返答は「素晴らしい選手なので見られないのは残念です」といったような内容だったのでほっとしました。返答した人のファインプレーと言えるのではないでしょうか。

しかし,バイルス選手の棄権の理由に関わらず,ひどい発言だと思います。仮に特定の選手がいなくなったことでほかの選手が有利という事実に触れるとしても,もっと別の表現があるのではないでしょうか。この質問が直接選手に投げかけられなくて良かったです。

ゴルフ松山選手のプレーの扱い(2021/08/01)

松山英樹選手が3位決定のプレーオフに挑んでいたところで,パーパットを外してメダルの可能性がなくなった瞬間に中継を打ち切ってスタジオへ移りました。少なくとも直後はその後のプレーを流さず,しかもすぐにほかの競技に中継を変えなければならないのかと思っていたらしばらくはスタジオにいる人たちが話す時間でした。もしかしたらプレーオフになったことで放送の時間がかなり厳しくなっていたといった理由があったのかもしれませんが,さすがになんとかして松山選手のプレー終了までは放送することができなかたのでしょうか。

この点については下記のように外した時点でプレー終了だったということを教えていただきました。

最初に書いていた「NHKは「メダルの可能性がないなら放送する価値がない」と考えていると受け取られてもしかたないやり方だった」というのは言い過ぎですね。私の認識と事実の把握も間違っていたということで,申し訳ありません。

そのほか

こちらは,どちらかというと「こういうものがない」というタイプの話ですので,私が見ていないところでは出てきていた可能性が十分にあります。

日本以外の国・地域の扱い

上で書いた2つのケース以外にも全体としてスポーツやアスリートへの敬意がない放送内容が散見されますが,特にホスト国にも関わらず「他国からこういう厳しい状況の中参加してくれて素晴らしいパフォーマンスをしてくれた/ている」という視点や表現が少ない気がします。

たとえば7/31日のトランポリンの実況でも,失敗した選手のスコアが出るのを待たずに日本の選手の決勝進出をアナウンスするということがありました。私の感覚ではせめてスコアが出るのを待つべきではないかと思います。ただほかの選手の失敗をどれくらい喜んで良いかというのは競技によって違ったりもしますのでトランポリンでは珍しくないことなのかもしれません。

日本の選手でも結果が出なかった(メダルが取れなかった)選手の扱いは少ないという点では首尾一貫しているように見えます。「勝つことよりも…」というオリンピック関連の有名なフレーズはさいきんでは触れられることもなくなったのでしょうか。

また,いちおうメダル数のランキング表のようなものは作っていませんが,ナレーションで「日本が金メダル数で1位になりました」のようなことは言っていますよね。少なくとも1回は確認しました。

コロナ禍への言及

これは上でも触れた記事に書いたのですけれど,番組の中でスポーツに直接関わっていない多くの人たちがコロナ禍で苦しんでいることへの言及がとても少ないと感じます。競技直後のアスリートの短いインタビューでそこまで触れることは難しいかもしれないので,スタジオにいる人がフォローした方が良いのではないでしょうか。

今回は特に,苦しんでいる人,本来できるはずのことややりたいことができない人も多い中で競技ができていることを自覚しているというメッセージをスポーツに関わる人たちが積極的に出していくべきではないかと考えています。たとえば東日本大震災の時はアスリートから「こういう状況の中で自分が競技をやっていて良いか迷いますが…」といった声が競技後のインタビューなどであったような記憶があるのですけれど。

おわりに

放送が局所的にある程度応援的になるのはしかたないのかもしれません。ただ私の見るところ,アナウンサーなどNHK側の人がむしろ日本寄りのことを言い,解説など競技により近い人の方がより冷静でフェアな発言をしている場面を見かけることが少なくなく,放送局としては問題ではないかと思います(逆ならまだ気持ちも分かるんですけどね…)。

確かに,メジャーな競技に関しては長年関わってきた人がいたり,マイナーな競技に関してもたくさん勉強して実況に挑んでいる人がいたりするかもしれません。しかしその前にスポーツに関するフェアネスやオリンピック・パラリンピックの精神のようなものは学んだり確認したりしないのでしょうか。

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