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歯切れが悪いのは仕様です。

現代日本語の表現の意味・用法を調べる時にとりあえず当たってみる本のおすすめ

はじめに

 この記事では,現代日本語(共通語)の特定の形式の意味・用法を調べる必要が出てきた(例:「明日休講だっけ」の「っけ」の意味・用法が知りたい)時に,手っ取り早く調べることが可能で,それでもある程度はしっかりした記述がなされている本を紹介します。私が担当している専門の授業でもよく話している内容です。
 すごくざっくり言うと,(『日本国語大辞典』を含む)国語辞典以上,専門の論文以下の情報を調べるための本の紹介です。
 ただし,場合によっては下で紹介する本の記述が専門の論文で先行研究として言及されることもあります。

おすすめ

グループジャマシイ(編)『教師と学習者のための日本語文型辞典』

日本語文型辞典

日本語文型辞典

 通称?『文型辞典』。もう出版から20年になるのですね。どちらかというと日本語教育畑の人におなじみの本という印象がありますが,カバーされている形式は幅広く,用例がたくさん挙がっていて文法研究の出発点としても非常に使いやすいです(詳細な分析がない場合にこれの記述を出発点にするとか)。
 本体は辞典形式で形式を50音から引けますが,末尾にも50音索引,逆引き索引,意味・機能別項目索引(「完了」「命令」などから形式を探せる)が付いています。
 あと,いろいろな言語のバージョンが出ているのも特徴ですね(英語版より中国語,韓国語,ベトナム語,タイ語版等が先に出ているというのが日本語教育的背景を感じさせます)。
日本語文型辞典 英語版 ―A Handbook of Japanese Grammar Patterns for Teachers and Learners

日本語文型辞典 英語版 ―A Handbook of Japanese Grammar Patterns for Teachers and Learners

  • 作者: 砂川有里子,石田プリシラ,グループ・ジャマシイ,クロス尚美,ジャン・プレゲンズ,ブリジット・ブローディー,木津弥佳,三森由子,部田和美,宮添輝美
  • 出版社/メーカー: くろしお出版
  • 発売日: 2015/10/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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日本語記述文法研究会(編)『現代日本語文法』シリーズ

こちらが記述は専門的であることが多いかもしれません。

現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

 7巻セットのシリーズなのですが,第1巻に総索引が付いていて,ここに各巻で取り上げている形式が網羅されています。各巻は「アスペクト」「モダリティ」などのトピック別になっているので日本語文法についてとりあえず基礎的な知識を得たい場合にも便利ですが,形式から調べる場合は第1巻をどうぞ。
 『現代日本語文法』シリーズは学生がそろえるにはちょっと値段がきついと思いますが,少なくとも図書館のどこにあるか把握しておくと良いかと思います。

基本的には出発点

 この2つはあくまでも出発点であって,調べた形式について詳細な分析を行う場合は,もちろん専門書や論文を探さないといけないということには注意して下さい。

おわりに:紹介の背景

 とりあえずどの本か知りたいという人はここは読まないでも問題ありません。
 なんでこんな記事を書こうと思ったかというと,特定の形式の意味・用法の情報源として,卒業論文の審査や演習の授業でも辞典の情報をあげてくるケースがしばしばあることが前から気になっていたからです。
 もちろん,研究のメイントピックになっている形式についてはきちんと専門書・論文を探せているケースがほとんどなのですが,メインではないけれども少し/幅広く言及する必要がある場合(例:終助詞「ね」がメインの分析対象で,その前に付く色々な形式の意味・用法に言及するような場合)等にそういう事態が発生するようです。
 また,談話・文章研究で特定の形式にフォーカスしない場合(例:女性ファッション誌10誌1年分のコピーの分析)とかだと,その分さまざまな表現・形式の分類・分析をする必要があり,一つ一つの形式に関する調査が手薄になることもあるようです。
 もちろん卒業論文だと個々の形式についても詳細に分析した専門書・論文がないか探すことが必要になります。一方で場合によっては詳しい分析が存在しない形式もありますし,上記の本にも記述がなく結局国語辞典を引くこともあるのですが*1,やはりこれらを知らない/調べないのはもったいないと思ったので記事にしてみました。
 言語学や日本語学だけはなく,哲学,文学,社会学等でも具体的な現代日本語の表現・形式の意味・用法に言及する必要が出てくるケース(あと言語学系の研究者でも日本語の研究には詳しくない場合とか)はあるように見受けられますので,そのような時にも使ってもらえると日本語の研究者としては嬉しいです。

*1:場合によっては『日本国語大辞典』の方が記述がやや詳しいとか,語誌を知りたい場合は『日本国語大辞典』の方がいいというようなことはあります。