誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

「なう」小考

を読んでふと。

アスペクト形式として

 ちなみに僕は全然使ってこなかったので内省?に全然自信が無い。
 上の記事のコメント欄にも指摘があるけれど、(動)名詞に付く接尾辞「〜中」に近いかな、という感じ。「ダンスなう」で「今ダンスを踊っている」とほぼ同じ状況を表せているんだとすれば。
 一方、文に付くというか動詞に後接する場合はよくわからない。問題は、「なう」だけで「ている」と同じように機能できるかということ。
(1) 雨が降るなう
とした場合、「雨が降っている」と同じような状況を表せるだろうか。twitter初心者の僕は難しいのではないかと感じていて、やはり
(2) 雨が降っているなう
とするのが自然のような気がする。実際、「動詞+ている+なう」の組み合わせはよく見かける(もちろん、定量的に調べたわけではなくただの主観)。
 (1)は無理やり解釈するなら「これから雨が降る」、「今にも雨が降りそうだ」という感じになるんだろうか。もしそうなる人がいるとしたら…ここから先の分析はアスペクトに詳しい人におまかせ。
 ところが、たとえば

銀座に向かうなう。
メリッサ on Twitter: "銀座に向かうなう。"

なんかはどうなんだろうか。これが「銀座に向かって歩いているところ」というような状況を表せるのであれば、「なう」が「〜ている」のようなアスペクト形式に近い機能を有している、そういう内省を持っている人もいるのかもしれない。もちろん、そうではなくて上で書いたような「これから銀座いに向かいます」というような意味かもしれない。
 一番上で、「なう」はイベント名詞について進行相のような解釈を出せるところから「〜中」に近いのでは、と書いたが、実は「〜中」と「なう」が共起する例も散見される。

帰宅中なう。
http://twitter.com/Tomoko_chi/statuses/9276116627

 うらやましい。ぼくはまだまだ帰れそうにない。もちろんこんな記事書いているなうからであるが*1
 脱線した。この場合、
(3) 今帰宅中
というぐらいの感じなんだろうか。そうすると、ここでの「なう」はほとんどアスペクト副詞(こんな用語あったっけ)と同様の機能しか持っていないように見受けられる。
 まとめてみよう。もしかしたらつまらない結論かもしれないが、上で示してきた使用法が全て正しいとして、「なう」には今のところおおよそ次の三つの段階が観察される。

  1. アスペクト副詞。「今」と(ほぼ)置き換え可能
  2. イベント名詞について進行相解釈を表す。「〜中」と(ほぼ)置き換え可能
  3. 動詞のル形について進行相解釈を表す。「〜ている」と(ほぼ)置き換え可能

あまりこういう議論には強くないのだが、素朴に考えると3に向かうにつれて文法的な機能が強くなっているように思える。もちろん、上にも書いたように、本当に3の段階の用法が安定して観察されるのかどうかはさらに慎重な調査を行った上での判断が望ましいと考える。
 また、(1)のところで触れたように、もし「動詞ル形+なう」が起動相(inchoative)のような解釈を持つとすれば、それはそれで面白く調べがいのあるテーマであると思われる。誰かお願いします。
 さらに、ここでは多くのパターンについて考察することができなかったが、名詞、動詞(句)の種類や、生起する他の副詞などの種類、組み合わせについても考慮する必要があるだろう。

名詞+なう

 前節の「イベント名詞+なう」の議論に関係してくるかと思われるが、「名詞+なう」は様々な可能性があって、簡単には論じられないかもしれない。
 僕の観測範囲で良く見かけるのは「場所名詞*2+なう」という組み合わせで、例えば

スーパーなう。
http://twitter.com/tatibana_bot/statuses/9276986818

だと、「今スーパーにいる」だろうか。
 では、次のような例はどうだろう。

仙台でラーメンなう。
http://twitter.com/Mimi3435/statuses/9276375771

これだと、「仙台でラーメンを食べている」だと思われる*3
 僕の(ささやかな)懸念は、「名詞+なう」という形式を取った場合、「強制(coercion)」が起こりやすく*4「イベント名詞+なう」の場合に出てくる解釈もそのようなメカニズムに沿って出てくるのであり、「なう」自体がアスペクト接尾辞として機能しているわけではない、という可能性だ*5。もちろん、イベント名詞に付く「なう」の場合はアスペクト接尾辞のように分析し、ここで触れているなうような「名詞+なう」とは区別するという分析の可能性も十分ある。
 ここでは結論を出すことはできないが、それとは別に、「名詞+なう」とその解釈にどのような組み合わせの可能性があるのかを調べるのもきっと面白いだろうな、と感じている。これもぜひ誰かやってみない?

おわりに

 ここまで読んでくれた方いるんでしょうか。
 もちろん、実際の例の中には、「なう」をただのほとんど意味の無い終助詞のようにして使用している人も混ざっているようであり、一般化は難しいかもしれない。しかし、以前にも書いた気がするが、誤用*6や言葉遊びの中にも言語のシステムは顔を出すことがあり、それがまた面白いのである。専門家/非専門家に関わらず厳しい批判と活発な議論にほんのり期待しながらこの辺りで筆を置くなう。
※追記
 動詞タ形に付く「なう」について記述するのを忘れていた。

  • やっと全部食べたなう。

この場合、パラフレーズするなら「〜ところ」が近いように思える。さらに、イベント名詞に付く場合でもこれに近い解釈が出る場合がある。

  • 帰宅なう。

これは、「今会社から家に向かっている途中」とか「仕事終わってこれから帰ります」のような解釈もあるのかもしれないが、「今、帰宅したところだ」というような解釈が出るような気がする。これは、次のような例でもそうではないか。

  • 到着なう。

これもさらに多くの名詞について検討する必要があるが、もしかしたら、到達動詞(achivement verb)とかに関係しているのかもしれない。
※追記2
 形式的に分析するなら、おおよそ"in a state that〜"というような意味を付け加えるようなoperatorなのかもしれない、と思った。思っただけ。

*1:ちなみにこの表現と「こんな記事書いているからなうであるが」はどっちが自然だろうか。

*2:場所名詞の定義についてはここでは踏み込まない。

*3:「食べ物/飲み物+なう」もよく見かける気がする。

*4:例えば、すぐ上の例では「食べる」という動作が補われている(cf. Pustejovsky(1995))。

*5:つまり、アスペクト的な解釈を云々するのにちょっと慎重になった方が良いかもしれない。

*6:「なう」のような表現に対して「誤用」という用語を使うのはまずいのかもしれない。