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応用言語学演習4を終えて雑感

 最近若干ブログ書きがスランプ気味ということもあるしたまにはこういうものを書いてみるのも良いだろうと。

はじめに

 筑波大学で初めての演習の授業だった。非常勤の時に半分講義、半分演習のような授業は持っていたがどうなることか当初は色々心配があった。実際には受講生に助けられたこともあって、なんとか各自にとって意義のあるものになったと思う。

難点1:形式面

 まず、演習にしては受講生が多かった(常時20〜30人ほど)。演習など議論に重点を置く授業では特に人数があまり多くない方が良いと思うのだが、受講生が多くて演習用の円形の机が設置されている教室から教室変更しなければならなかったのが痛かった。座り方でも意見・質問の出やすさというのは違いが出ると思う。
 人数が多いことにより受講生一人当たりの発表時間を少なくせざるをえなかった。グループ発表を選択してくれる受講生が多かったのに助けられたが、筑波大学の75分授業に発表枠を2つ入れると、面白い議論に発展しそうなところで切り上げざるをえないということもちょくちょくあった。
 また、私の授業は講義と演習が隔年開講なので、昨年度講義の授業を取っている受講生はまだ良かったが、私の授業を初めて取る受講生のためにある程度のイントロをしなければならなかった。これも発表枠を圧迫した面がある。「講義を履修した学生でないと受講できない」という制限をかければ良いとおもうかもしれないが、隔年開講(今年度取れないと次は2年後)ということを考えるとそれも難しいだろう。

難点2:内容面

 この授業は旧名を「文章論演習」と言い、(主に日本語を対象とした)文章論・文章研究(text linguistics)がメインである。
 文章研究というのは小説など身近な対象を取り扱うこともあるのでとっつきやすい印象を持つ人もいるらしいが、取り組むとなるとなかなか色々な基礎が必要とされる分野である。
 文法研究の基礎的な知識も必要だし、たとえば結束性・一貫性のテーマである主題、照応・代用、接続表現などの論文を読むには意味論の基礎が分かっていないとつらいものも多い。さらに、文章・談話研究の問題設定には語用論に関連するものもある。私は語用論をある程度きちんと理解するためにはやはり意味論の基礎がある程度分かっている方が良いと考えている。
 また、現代の文章研究ではコーパスに関する技術やテキストの機械的処理に関する知識も欲しい。この授業の広範では電子メディア(メール、チャット、Twitterなど)を取り上げたが、そうすると各メディアへの理解も必要になってくる。
 来年度の講義の授業ではできるだけ多くのトピックをカバーしたいと思っているが、あまり浅く広くし過ぎるのも問題が出てきそうだし、基礎的なトレーニングは結構忍耐が必要なものも多いので、どのように進めていくか難しいところである。まあ1コマで色々やろうと考えるのが無謀なのかもしれないが…
 筑波大学は幸い言語学の授業はかなり充実しているので結構基礎的なトレーニングを積んでいる学部生も多いのだが、実際の発表では面白い現象に気付いているにも関わらず、基礎的な知識や技術が無いことによって、どのようにアプローチして良いのか分からない、というような段階の受講生をしばしば見た。
 幸い、受講生からも色々コメントが出て質疑はかなり充実していることが多かったので、この授業での発表を糧にして次のステップへ進んでくれることを祈っている。

楽しかった

 で、私自身はというとどの発表も面白く、ものすごく楽しませてもらった。
 もちろん言語研究としてはまだまだというものも多かったのだが、拾ってくる現象も、着眼点もなかなかうならされるものが多かった。先輩の教員が言っている演習の授業は楽しいというのはこういうことなのだな、と実感できて教員として幸せだと思う。
 私のコース運営がつたなかったためになかなか一人一人の充実感というのをどこまで満たせたか自信がないのだが、この授業をきっかけにさらに言語学にのめり込んでいってほしいと思う。
 せっかく大学に来たのだから、進学するしない関わらず、卒業までに学問というのは知識や技術を得るとこんなに面白くなるんだ、という体験をぜひ一度は味わってほしい。