最近ALSの支援活動としての「アイス・バケツ・チャレンジ」が色々話題になっているようですが
先日参加した音韻論フォーラム2014の講演でALSの支援にも深く関わる「マイボイス」というプロジェクトのことを知りましたので微力ながら宣伝になれば、と思い書いておくことにします*1。このプロジェクト・ソフトの存在を広く知ってもらいたいということですので、色々な形(口づてとか)で広めていただけると嬉しいです。
さて、概要については、言語研究者としてプロジェクトに参加されている川原繁人氏のページがおそらくわかりやすいのではないかと思いますので、そちらから引用しておきます。
- マイボイスとは、将来自分の声が失われると分かっている難病(特にALS)の患者さんの声をあらかじめ録音し、声が失われた後もパソコンを通して再生することを可能にするソフトです。
- 商用を目的としておりませんので、基本的にフリーです。
- 音素ベース(基本的に50音+濁音+拗音など、計約130音)ですので、録音時間は30分で済みます。
マイボイスは「HearthLadder」という文字・文章入力ソフトをベースにしています。
本ソフトウエアは手などが不自由なため、キーボードやマウスでの入力が出来ない方のために 開発した文章入力用のソフトウエアです。
HeartyLadder
これでイメージできる方も多いでしょうが、ごくごく簡単にまとめると
- 自分の声が出せるうちに必要な音を録音しておく
- 文字を入力すると、それに合わせて録音した声を組み合わせて自分の「声」で発話することができる
という仕組みになっているのですね。
なぜ合成音声や文字そのものによるコミュニケーション手段も発達してきているのに「自分の声」なのか、というのも上記の川原氏のページに紹介があります。
- 患者さんの声:「自分の声が使われると自分が話している気がする」
- 患者さんの声、マイボイスを使った講演のあとに:「今お聞き頂いてるのは、私の声です...この声のおかげで、生きてる喜びを感じます」。
- 看護をする側の声:「彼の「あいうえお」なら一日中、家の中で鳴り響いていても、気にならない。むしろ聞いていたい」
- 家族からの声:「声はお父さんそのもの」
- ALSなど肉体機能が失われるなかで、「失うばかりではない声」。自分の声によって、自分の声で、新たなメッセージを作り上げることができる。
- 合成音声でなく自分の声を使うことで、患者さん・家族ともに勇気づけられる。
患者自身のQOLだけでなく、家族や看護をする人にとっても良い、という点も重要なようです。
あと、言語研究者としては、川原氏が言っていた「言語研究は個人個人の差異を捨象するということをするが、マイボイスという個人個人の声に向き合う取り組みから学ぶべき点は多いのでは」という示唆が印象的でした。
川原繁人氏は(特に)音(声)の研究者としてものすごい方ですが、そういう方がこのプロジェクトで何をやっているかというと、まさに「音(声)」の取り扱いについて様々な取り組みをされているのですね。やったことがある方はわかると思いますが、音(声)というのはきちんと録音するだけでも色々気をつかうことがあって大変ですし、個別に取った音をつなぎ合わせて一つなぎの「発話」にするのにはこれまた色々な調整や工夫が必要だということです。
この活動はALSだけでなく何らかの理由で声を失うことになった方全般に関わってきますし、それ以上の可能性も模索中のようです。
あまりそういう話題が身近ではなくても(実際は病気や事故は自分でもいつ向き合うことになるかわからないわけですが)、今ではスマフォなど身近に高機能の録音機器があったりしますし、自分の声を取って上記のソフトで再生・発話することを体験してみるというのも良いのではないでしょうか。
*1:特に寄付を募っているというようなことはないようです。