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歯切れが悪いのは仕様です。

意味論と語用論の複雑な関係

 珍しく本業のお話を(笑)
 それでも自分の専門とは若干離れているのですけれど、良い本を見つけたので紹介しておきます。本当は理論言語学の方のブログに書く内容かもしれないのですけれど、そこまで内容には踏み込めないので。
 今回のオススメ(なんか専門書の推薦てものすごく久しぶりだ)はこれ↓

Context-Sensitivity and Semantic Minimalism: New Essays on Semantics and Pragmatics

Context-Sensitivity and Semantic Minimalism: New Essays on Semantics and Pragmatics

 論文集で、トピックは何かというと、副題でもちょっとほのめかされているように、意味論と語用論の関係について。具体的には、メインタイトルにあるような、文脈によって意味が左右される現象をどのように取り扱うか。
 はい、ここで「「文脈によって意味が左右される」なんて当たり前じゃん。何を今さら」、と思った言語学関係者のあなた、あなたこそこの本のせめてイントロだけでも読んでほしい(あ、もちろんこの手の話の専門じゃない方で)。
 伝統的な哲学畑の研究の流れを汲んでいる話題や論文がほとんどなので、結構テクニカルな論文もあったりするけれども、Cappelenによるイントロだけでも読む価値はあると思いました。
 というかむしろ、こういうフォーマルな研究を追うことをメインにしていない人にこそこのイントロを読んでほしい、というか、そういう人にとっては格好のまとめ(イントロ)として利用できると思います。若干形式意味論っぽい記述も出てきますが、多分英語の言語学の論文がある程度読めれば大丈夫なぐらい平易に書いてあると思いますし。
 もし日本語である程度の関連/背景知識が欲しければ、
語用論への招待

語用論への招待

 の最初の方の説明なんかわかりやすくて個人的には良いと思います。
 なんでこんな記事を書いているかという理由について二点ほど触れておきます。
 まず一つは、日本の記述研究になかなかこういう形式的な研究の成果が取り入れられないなあ、と普段から感じているというのが一つ。いや、きちんと勉強している人がいるということも、やっぱり慣れるのが大変な領域だということもわかってはいるのですけれど、概念分析を得意とし、言語と世界の関係、あるいは「意味」とは何かということを厳密に、丁寧に追い続けてきた研究者たちの知見を参照しない、というのはやっぱりもったいないと思うのですよね。
 語用論の理論といえばGriceとSperber and Wilsonぐらいなら知ってるけど…という方にとっては、この二つの有名な研究が理論的には一体どのように位置づけられるのか、他にはどういう考え方があるのか、という情報を得られるというだけでも結構面白いと思います。
 もう一つは、まさにこの本のテーマである意味論と語用論の関係について。意味論、語用論ってまあ言語研究に携わっていれば普通に使いますけど、じゃあその定義と関係について説明して、と言われたら…?これは専門家でないと意外と難しい問題だと思います。
 そこでCappelenのイントロから少し引用

There is, however, one small point I will try to promote, at least indirectly: there's no such thing as the semantics-pragmatics distinction and looking for it is a waste of time.

Philosophers and linguists have used the words 'semantic' and 'pragmatic' in an extraordinarily confusing array of ways over the last 100 years. In part as a result of this, the field is highly susceptible to terminological disputes. The best solution would be for all of us to decide never to use these dreaded words ever again. That, unfortunately, is unlikely to happen.

まあ結構過激な書き方ですし、このまとめに納得行かない人も結構いると思いますけど、要は生産的な議論を行うということを第一優先事項としてしっかり意識しようぜ、という問いかけだと思いますし、この論文集自体にはきちんと色々な立場の論考が収められているようです。
 でも、"terminological disputes"という言葉にはこの領域の研究者ではなくてもドキッとさせられるのではないでしょうか。重要、というか最終目標は概念のラベルそのものや、どこに何を分類するかではないですよね(もちろん研究上分類が重要なことは多々ありますけれど)。
 各論文の概要やCapplenのイントロのわかりやすいまとめもできれば完璧なのでしょうけど、僕では力不足なのでこの辺りで(^^;