誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

「国文法」についてきちんとした専門家による現代的な評価/解説を読んでみたい人へ

 ブクマもしたのですけれど、以下のエントリ

の以下の二つのレスが気になったので。

6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/15(水) 03:23:35.89ID:6tMDNVP10

取りあえず国文法の研究が中学レベル以降進歩していないのを何とかしよう

8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/15(水) 03:26:56.60id:LChsO8kD0

>>6
品詞分類と主語+述語の他の言語から見れば文法とは呼べない中学国語で教わる「文法」が実質的に現状の研究の到達点と聞いたときには衝撃を受けた

 ここに書いてあることは、僕のこれらの文の理解が間違っていなければ、どれも事実とは異なっています*1。学校文法はいわゆる*2「国文法」研究のごくごく一部の反映であって、学校文法だけ見ていたのでは絶対にわからない豊かな研究成果があります。
 また、これは専門家でも意見が分かれると思うのですけれど、学校文法は色々問題はありつつも、なかなか練られた体系になっていて、それほど捨てたものでもないと思います。

 さてそこで、専門家による、現代の言語学の研究とも絡めながらの、現代の視点から見た「国文法」について読める文献を紹介しておきます*3

  • 金水敏(1997)「4 国文法」『岩波講座 言語の科学 5 文法』岩波書店

岩波講座 言語の科学〈5〉文法

岩波講座 言語の科学〈5〉文法

 「国文法」の研究史や成果、考え方などを紹介しつつ、またそれらの研究の問題点などについても書かれている、とてもバランスのとれた記述がなされていると思います。また、もっと知りたい人にとっては、この中で言及されている文献がどれも参考になるでしょう。
 多少専門的で、また一般的には入手しやすい本であるともいえないと思うのですが、内容、分量、わかりやすさ、などを考えるとおすすめの一本です*4。個人的には日本語についてある程度専門的に勉強する、あるいは研究する人全てに読んでほしいぐらいです。
 読む際の注意点があるとすれば、現代言語理論との対比などについてはかなり著者の独自の意見も入っていますので、日本語の研究に携わる研究者が広くこの見解を共有しているかどうかについては慎重になった方が良いかもしれません。また、網羅的な記述ではないのでこの一本を読んで「国文法」についてあらかたわかったとは思わない方が良いです*5

余談

 ちなみに僕は「国文法」がものすごく専門というわけではないので、上で紹介した文献に対する評価についても、その辺りのことを差し引いて受け取ってもらえれば幸いです。
 また、僕ごときが金水氏を指して「きちんとした専門家」などというのはおこがましいにもほどがあるのですが*6、世の中には困った(自称)専門家も多いので、タイトルにはこう書いておくことにしました。

*1:「国文法」や「研究の到達点」辺りの解釈次第で違った評価はあるかもしれない。

*2:全てつけたいところだけれど煩雑だと思うので以下、「いわゆる」は省略します。

*3:前も紹介した気がしますが。

*4:もちろん、「国文法」研究史についての専門的な文献は他にも色々あります。

*5:それでもあの分量にしては驚異のカバー率だと思いますが。

*6:これも偉そうな書き方で恐縮ですが、どれだけの業績を挙げている研究者なのかは、amazonなどで著者名で検索するだけでもその一端が垣間見られると思います。