誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

附属図書館主催ライティング支援セミナー終わりました(質疑応答のメモなど)

 イベントの概略については下記の記事と、そこにある筑波大学附属図書館のページをご覧下さい。

 ちなみに、参加者は計6名で、学部の1年生が3名、大学院生が3名と面白い構成でした。ちょっと寂しい気もしましたが、少人数だとより対話っぽい感じにしやすいので良かったと思います。

何をやったか

 このちょっと前に中高生向けの授業もやったのですが(読書案内もこちらのエントリをご覧下さい)、

扱ったトピックはほとんど同じで、

  • 事実と意見の区別の難しさ(&実際の文法にどう絡むか)
  • 理由と根拠は違う
  • パラグラフライティング入門

が主な内容でした。
 今回は大学生&大学院生対象ということで、

  1. レポートは研究や卒論の部分練習になっていることが多い
  2. 各専門分野の勉強をしっかりやる(ことでその分野の表現や論理展開を身につける)ことも重要

という辺りのことも少し詳しく話しました。
 特に2については意外だと感じた参加者もいたようです。アカデミックライティング教育に携わってまだ数年なのですが、さいきん、「まず汎用的な言語運用能力をしっかり身につけて、それから専門的な勉強をする」という順番でのやり方は、幻想に近いのではないかという実感があります。「幻想」というのは言い過ぎかもしれませんが、少なくともかえって効率があまり良くないか、限られた人にしかできないやり方ではないかと。
 ある分野の勉強を通して身につけた言語運用能力が(結果的に)他の分野にも広く応用可能だった、とか、複数の分野の勉強を通してある程度の時間をかけて汎用的な言語運用能力を身につけた、とかってことは十分可能だ(から幻想を持ってしまう人がいるんじゃないか)と思うんですけどね。
 この辺り、自分でもまだ整理できていないところがあるのでまた改めてどこかで書きたいと思います。

質問と回答

 さて、今回もメモも兼ねてQ&Aを簡単にまとめておきます。といっても2つだけですが。当日実際に行われたものとは表現やニュアンスが異なっている可能性があります。

Q1: 文章作成能力の向上にはトレーニング量の確保が重要という話があったが実際にどういうトレーニングをやれば良いか

A1: 何か新たなトレーニングを導入するというよりは、ふだん課せられる課題や文章を書く機会に、より多くの時間と労力を割くというのがおすすめ。たとえば実行するのは難しいかもしれないが、レポート課題が示されたら早めに取り組んで、提出前に推敲をしたり、他の人に読んでもらったりすることができるとかなり良い。第1言語(母語)で書く場合、しかもなまじ書く能力がある程度あると締め切り前にばーっとやってなんとか乗り切ってしまえるのがかえって厄介なので、できるだけ意識してみてほしい。
 この質問への回答としては話さなかったのですが、セミナーでは、アカデミックな文章の読み書きだけではなく、たとえば小説やブログやメールといったさまざまなジャンルの文章に触れることが言語運用能力全体の底上げにとって良いという話も少ししました。

Q2: 受動文を続けて書いてしまってこれで良いのかという気持ちになることがある。良いのでしょうか。

A2: 分野や場合による。学問の場では、ある程度文章の表現としての簡潔さやくどさよりも表現の正確さを優先させることがある。ただその優先順位や度合いは研究分野やそのトピック・文章の位置づけ、研究者のポリシーなどによっても違ってくるので、自分の分野ではどのようなやり方が推奨されているか、自分の評価者(指導教員等)はどのような信念・価値観を持っているか、ということと、自分の信念(何を優先させたいか、どういう文章を書きたいか)との兼ね合いで決めるしかないのではないか。
 具体的なポイントとしては、文末の「と考えられる」は省けることがけっこうあるので、どうもくどいと思ったりしたら重点的にチェックしてみると良い。

おわりに

 今回も思ったより質問が出たので、質疑応答の時間をもっと取った方が良かったかもしれません。ただなんだかんだで「この話をするならこれも話しておかなきゃ」みたいなことがけっこうあるんですよね…私の方でまだ洗練できていないということもあると思いますが。
 私の担当回はこれで終わりですが、セミナー自体はまだまだ続きますので、筑波大所属の方は気軽にご参加下さい。