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歯切れが悪いのは仕様です。

【ネタバレあり】「才能」や「趣味」から見るマンガ『さよなら私のクラマー』(後半)

前半のタイトルは「「親」や「指導者」から見るマンガ『さよなら私のクラマー』」でしたので,テーマは変わってしまっているのですが,同じ作品のレビューの前後半ということでお許しいただければ。

dlit.hatenadiary.com

なんか記事を書くために読み直すと,ついついそこから読み始めちゃうんですよね。しかも読み直すとまた書きたいことが出てきちゃって。と言っても今回の記事もおそらくすでに語り尽くされてきたような内容でしょうけれども。ちなみに以下が最新刊です。

「天才」と「凡人」

「天才」と「凡人」,「才能」と「努力」,スポーツに限らず,マンガに限らず,さまざまな物語で取り扱われてきたテーマですね。ごくさいきんのものだと,2021年1月号の『アフタヌーン』に掲載の『ブルーピリオド』でちょうど取り上げられていました。タイトルもまさに「【38筆目】才能と努力」となっています。

『さよなら私のクラマー』でも,折に触れて「天才」「凡人」「才能」がキーワードとして登場します

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ただ,上で紹介したブルーピリオドでも出てくる「努力する(できる)のも才能」というようなフレーズは出てこなかったように記憶しています。

あとは「情熱がある者」とそうでない者の対比,対立というのも描かれていますね。前半でも少し触れたようにワラビーズに3年生がチームから出て行くという出来事が出てきます。また,あまり具体的には描かれていないんですが,栄泉船橋もチームの分裂があったのかなと思わせる描写がありますね(6巻 p.137とか)。あと個人だと,周防すみれの回想にも「ついていけない」と言われるシーンが描かれています(1巻 p.34)。「才能ある者」と「情熱がある者」は人としては重なっていることもあるので,見えにくいかもしれませんが,ちょっと別の話だと思います。他作品で有名どころだと,『SLAM DUNK』の赤木と(元)チームメイトの対立などでしょうか。

この作品には,「天才」「才能ある者」として扱われているプレーヤーはたくさん出てきます。恩田,周防,伊藤,国府,藤江(妹),…特に興蓮館戦では藤江姉妹と来栖未加に関するエピソードを中心に,「天才」と「凡人」がテーマとして取り上げられます。その展開自体はそんなに変わっているというわけではないのですが,私にとって印象的だったのが藤江宇海が妹の梅芽を評する時の次のセリフです(「使えるコマ」になかったので引用で)。

サッカー界には天才って呼ばれる奴はくさる程いる くさる程!!
私も天才 あんた(dlit注:来栖のこと)と梶も天才
私は凡百の天才だけど 梅芽は正真正銘一握りの天才だ
(『さよなら私のクラマー』9: 123,強調はdlit)

私も小学生〜大学とそこそこ長くテニスという1つの競技をしていましたのでなんかそういえばテニスもそうだったなって気がします(ちなみに私はプレーヤーとしては凡人中の凡人でした)。ほんと,スポーツ界って「天才」がたくさんいるんですよ。特にサッカー界は競技人口が多いですし関わる大人やメディアが多いのでそういうところ激しそうです。

これもさんざん語られてきた話だと思うんですが,そもそも「天才」が何を指すのかっていうのが多義的かつ曖昧なんですよね。基本にはパフォーマンスの高さというのがありそうですが,時には「早熟」と同義だったり。

で,私が気になるのは,「子供」のプレーヤーを「天才」に位置付ける「大人」の存在なんですね。指導者だったり,保護者だったり,メディアだったり。もちろん同世代のプレーヤーから憧れとともにそう呼ばれるということも少なくないのかもしれませんが。

この作品での「天才」たちは,孤独だったりはするものの,そこまで悲劇的な立ち位置には置かれません(いや,伊藤や国府は指導者に好かれないという過去のエピソードもあるんですが)。指導者も才能ある者をうまく導けるような人が多く登場します。

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でも,この作品を読んでいると,「天才」と呼ばれたために無理をし(あるいはさせられ),「潰れて」しまったプレーヤーたちのことを考えずにはいられません。ほんと,子供のスポーツに関わる大人ってひでーのもたくさんいるんですよ。少年マンガで描くようなことではないのかもしれませんが。

最後に「努力」について少し書いておくと,さいきんのスポーツ漫画は「とにかくがむしゃらに練習して」結果を出すという展開が減ったなと思います。たとえば野球マンガの『MAJOR』でも主人公は途中までかなり無茶な練習をするタイプですが,途中から科学的なトレーニングの話が出てきます。サッカーマンガだと私が練習しすぎだろと思ったのは『ホイッスル!』の風祭将ですかね。

あと,この作品に限らず,練習しないけど才能のみで良いパフォーマンスを出すキャラもあまりいなくなってきているように思います。才能がある者もない者もみんな,理に適った練習をたくさんやっていて,そこがスタートライン。そういう意味で現実的にはなってきていますが,才能もなく努力を継続するのもあまり得意でない私みたいな人間には時につらく感じられることもあります。

プレーヤーの覚醒

スポーツマンガにおいてプレーヤーの「覚醒」というのは盛り上がる要素の1つですよね。「覚醒」と言っても,上の「才能」や「努力」の話と通じるところもあって,そのベースには積み重ねられた努力や理に適ったトレーニングがあることが多いんですが。

私自身のことではないんですが,少なくとも若いプレーヤーって本当に「覚醒」と呼びたくなる,急に成長するということがあるんですよ。これが試合中だったりすると特に心を揺さぶられますね。ちなみに,こういう「覚醒」はスポーツに限らず,音楽とか研究とかでもあると思うんですが。

私が一番印象的だったのが,越前佐和の成長です。その描かれ方から,頭脳的なプレーヤーとして頭角を現すかと思いきや,フィジカル面のすごさがクローズアップされるという。おそらく戦術理解が高いという面もパフォーマンスに影響しているとは思うのですが,そこの具体的な話はあまりないように思います。下記のコマにあるように,仰向けのまま飛び跳ねられるぐらいのフィジカル

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で,私はキャラとしても越前がたぶん一番好きなんですが,読んでいて一番涙腺に来たのは白鳥綾の「覚醒」でした。理由はよく分からないんですが。

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「趣味」の描写

この作品の面白いところは他にもいろいろあると思うのですが,最後に「趣味」の描写を取り上げておきたいと思います。

たとえば,「オタク系」の曽志崎緑(と安達太良アリス)。

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御徒町紀子のメタル(下記コマの一番左)。

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ところでこだわりが感じられるのが越前佐和のホラー映画?趣味です。おそらく作中で明確な言及はないと思うんですが。下記にTシャツシリーズのコマを列挙しますが,Tシャツはほかのキャラについても色々「遊び」が見られるのに対して,越前についてはTシャツだけでなく部屋の描写も凝っているのでなんか気になってしまいます。

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以下Tシャツシリーズ(なんで使えるコマにこんなにあるんだ)。

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そのほか

スポーツマンガとしてあと気になったことと言えば,メディア関係車がほとんど出てこないということでしょうか。スポーツジャーナリストやカメラマンが試合の解説役を担うなんてのは良くあるパターンだと思うのですが。

一応,今回用意していた内容については一通り書けましたが,また思いついたことなどあれば追加で何か書くかもしれません。