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歯切れが悪いのは仕様です。

日本言語学会第168回大会雑感

はじめに

6月29日(土)、30日(日)の週末にICUで日本言語学会第168回大会があり、大会運営委員として参加しました。

この学会の大会運営委員は3大会ごとに委員の半数が交替する制度を取っており、今回の大会がその区切りです。委員長の松浦さんをはじめ、オンライン開催から対面開催(+録画配信)への移行、ポスター発表の拡大など大きな変化があって大変だったと思います。おつかれさまでした。私はあと3大会分任期が残っていますので今後もしばらくちょろちょろしています。

ICU

今回、言語学会ではじめて研究発表の司会を担当しました。実は私が院生のときにはじめて学会発表をしたのも前回ICUで開催された言語学会(第130回大会)でして、同じ大学で同じ全国規模の学会があるのはそれほど多くないことを考えると、なかなかの面白い偶然だと思います。

ICUは駅からバスで時間がかかったりと移動時間に注意というのは今でも覚えていて、偉そうに授業でも学生にアドバイスなどしておきながら結局私も集合時間に遅れたりしてしましました。面目ない。

分散形態論

今回司会をしたセッションの研究発表はどれも私の専門の1つである分散形態論 (Disributed Morphology)という理論にどこかで関わりがあるものでした。

上に書いた院生時の研究発表は分散形態論を用いた研究発表としてもはじめてのもので、その頃に比べるとほんとうによく使われるようになったなと思います。当時は(国内では)あまりやってる人がいないので面白がってやってたという側面もあったくらいだったのですけれど。今回の大会時に何人かの方からも「分散形態論も人気になったね」というような声をかけていただきました。私が普及をがんばったからとかそういう事情はなくて、元々海外ではけっこう使われ始めていたので日本でもそうなるというのはあまり不思議なことではありません。

ポスター発表の方にも分散形態論をはじめ形態論関係でおもしろそうなものがいくつかあったのですが、ほとんど聞きに行けなかったのが残念です。

会長就任講演「より豊かな言語学をめざして」

今回は新会長の定延利之氏の就任講演がありました。このブログでもときどき言及する研究者です。

定延氏の研究は内容がおもしろいだけでなく、話も分かりやすく例などもおもしろいので聴衆から笑いも起きる和やかな雰囲気のように感じました。

今回は会長就任講演ということもあって特にポジティブな受けとめられ方をしていたというところもあるかもしれませんが、定延氏の講演や発表はいつも受けが良いような印象があります。

これが実は私にはちょっと不思議に思えるところがあります。定延氏は話し方も非常に穏やかな感じなのですが、話の内容はけっこう「言語学ってこのままで良いの?」みたいなハードな問いかけが多いのですよね。そういう問いかけをいろいろなトピックでずっと続けてきていて、その問いかけ自体は受け入れられているのだけれど真正面から定延氏の問いかけに応答している研究はそれほど多くないんじゃないかな。私が知らないだけでしょうか。聞いた人にしか分からないでしょうけれど、今回だって言語学がやった方が良いけどできてないスペースがまだこれだけありますって話でしたよね。

それほど今回のトピックが専門ではない私にも現段階で言えそうなことはいくつか思いつきます。たとえば語用論も推論モデルをベースにするようになってからは(コードモデルよりも)幅広いコミュニケーションを取り扱えるんだ、とか。もっと専門の方はいろいろ考えることがあるでしょうし、質疑応答があれば盛り上がったのかな。

公開シンポジウム「言語理論とフィールド言語学によるデータの接触点」

個々の発表・話題提供はそれぞれ非常に勉強になり、また面白い観点・論点も色々出ていたのですけれど、だからこそもう少しシンポジウムとしてのまとめ的なものがあると良かったかなと感じました。質疑応答の最後の方が実質的にそんな内容になっていたような気はします。

あと、「理論」と「記述」の関わり方についてはこれまで言語学系の学会のシンポジウムやワークショップで定期的に取り上げられてきたので、個々の企画に言及するのは難しいとしても、今までのそういう企画はどういう点が良かったか/悪かったかという話も個人的には聞いてみたかったです。質問するのも考えていたのですが、時間がなくなってしまいました。

おわりに

次回は秋の大会で、2024年11月9日(土)、10日(日)開催、会場は北海道大学です。

日本言語学会 - 研究大会について