誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

「全員野球(内閣)」と野球を使ったたとえについてちょっとだけ

 下記のような記事を読む度に思うのですが,こういう非常に広範な人(今回は国民全員のはず…)をターゲットにしている文脈で野球をたとえとして使うのってどうなんでしょうか。これってけっこう古い感覚なのではないかと考えています。

mainichi.jp

 ある特定の分野や知識に依拠したたとえは,それをある程度知っている人にとっては理解の助けになる可能性がありますが(ただうまく使わないと誤解や反発を招くことも),それ以外の人を切り捨ててしまう可能性もありますよね。

 「全員」が付いているから意外とある程度意味の推測はできるのでしょうか。でも下に挙げる「全員野球」のニュアンスは野球をある程度知っていないと意外と伝わりにくいような気がします。

もう少しくわしく

 さて,辞書には「全員野球」で項目がありました。

①野球で,正選手や投手など一部の戦力に依存するのではなく,チーム全員で一丸となって勝利に向けて力を尽くすこと。
②転じて,関係者の全員が一丸となって物事に取り組むこと。「—で政策実現に取り組む」
『大辞林』

 「ストライク(ゾーン)」「直球」「変化球」等,野球発祥で日常の表現として定着しているものも多いのですが,この「全員野球」はどうなんでしょうか。

 試しにBCCWJ(現代日本語書き言葉均衡コーパス)で「全員野球」で検索したところ5件しかヒットせず,すべて野球に関する文脈でした。思ったより少なかったです。比較的新しい表現なのでしょうか。少なくともそれほどたとえとして定着している表現とは言えないような気がします。

 webでも少し検索してみたのですがどうも政治家が使っているという指摘が散見されます。上の大辞林の用例も政治の文脈ですね。

www.data-max.co.jp

おわりに

 先日も記事を書いたように私自身は野球が好きです。だからこそ気になるというか。もうとても「国民的スポーツ」とは言えないというのが私の実感です(そうあってほしいとも思いませんが)。

dlit.hatenadiary.com

また,以前自分でも野球のたとえを使ったこともあります。

dlit.hatenadiary.com

この記事にも書いたんですが,やっぱりこういうたとえって難しいなと思います。特定の人にだけ届けばいいやっていう場合は良いのでしょうけどね。

追記(2018/10/03)

 ブコメいろいろ面白かったです。ありがとうございます。

b.hatena.ne.jp

 コメントを読んでいて思ったのですが,むしろ野球にそれほどなじみのない方の方が「全員で一丸となって取り組む」というようなポジティブなニュアンスをすんなり読み取れるということがあるかもしれませんね。

 野球で「全員野球」という表現が使われる文脈には主に 1) 絶対的なエースなど飛び抜けたプレーヤーがチームに存在しない,あるいは個々の能力はそれほど高くない(のでチームワーク等でカバーする),2) いわゆるスタメンだけでなく控えの選手も多く試合に参加する,の2つがありそうです(この2つが重なることもありますし,もっと細分化できるかもしれません)。野球に詳しい方だと特に1)の文脈でネガティブなニュアンスを受け取ってしまうというようなこともあるのかもしれません。

追記(2018/10/05)

 ブコメで教えていただきました。

business.nikkeibp.co.jp

身近だった沖縄の基地の思い出とか

はじめに

 私は沖縄に生まれ18歳まで沖縄で暮らしていた人間なのですが(現在は東京在住つくば勤務),沖縄の基地に関する思い出について少し書いておこうと思います。 特に結論等はありませんので,体験談としてお読み下さい

 以前「殴り書き」の方では何度か沖縄について書いたことがあるのですが,

dlit.hatenablog.com

こちらでは実は5, 6年ぐらい書こうかなと思っては躊躇してきたトピックですので,個人的にはけっこう思い切りました。ほんとうは今回の沖縄県知事選前に公開したかったのですがなかなかうまく書けませんでした。ちなみに知事選の結果にはほっとしています。

 書く動機で最も強いものは体験談等のできるだけ具体的な情報が多くの人からアクセス可能な方が良いという(ニセ科学問題とか他のトピックについても重視している)方針です。

 一方で,躊躇してきた理由の最たるものは,私が現在沖縄の住人ではないということにつきます。沖縄に限らず,その地域のことについてまずはそこで暮らしている人たちのことが優先されてほしい。だからできるだけ現在沖縄に住んでいる人のいろいろな話がwebで(も)読めるのが良いと思うのですが,私がここで書く思い出ももうそろそろ30年前の話になってしまいますので,書いて残すのも良いだろうと。

 ちなみに知事選に関しては下記の記事がはてなブックマーク数こそ少なかったですがいろいろな声を載せていて(もちろんこれでも断片的で網羅的ではないでしょうが)良いなと思いました。

www.asahi.com

テニスコートの思い出

 これも何度か書いていることではあるのですが,小学生の頃から硬式テニスをやっていました。今から30年弱ぐらい前の話で今の状況からは想像しにくいかもしれませんが,こどもがやるスポーツとしては競技人口も少なく学校でばかにされたことなんかもありましたね。

 で,家族で週末に練習をするのですが,「キャンプ・シールズ」と呼ばれる米軍基地の中にあるテニスコートでやっていました。

FAC6032キャンプ・シールズ/沖縄県

 私が小学生の頃は基地に入ることがそれほど難しくなく,IDを持っているうちなーんちゅも多かったようです。そのテニスコートはゲートのすぐ側にあったせいか,IDがなくても入口で “We play tennis.” と言えば通してくれていました。いつもは親が一緒だったのですが,何度か兄弟だけで入らせてもらったこともあります。

 ちょっと話がテニスにそれます。ものすごくサーフェスが速いハードコートでした。その頃そこでよくテニスをしている大人のプレーヤーの皆さんは「シールズ」という名称で大会にも出たりしていてその後たしか具志川(現うるま市)に拠点を移していました。今でも続いているのかな。今思えば技術もなくでも強いボールは打ちたがるこどもともよく練習や試合をしてくれて,ありがたかったです。

 週末の練習はだいたい午前中で,終わったらゲートの外で売っているホットドッグが昼食でけっこう楽しみにしていました。基地関係者かどうかは分からないのですが(おそらく)アメリカ出身の方がやっている店で,注文等も英語。サイズが大きくてチーズが濃厚でした。そういえばたまに親が基地の中で買ってきてくれた大きなピザも美味しかったなあ。

 私にとっては,こういうところで,米軍基地って非常に身近なものだったのですよね。

 ただその後,国際情勢の変化等いろいろな要因があったのでしょうけれど,だんだん基地内に入るのが難しくなっていきました。なんの時だったかは忘れましたが,一度練習のためにゲート前まで言ったものの入れず引き返した時の緊迫感は今でも覚えています。「ああ基地ってこういうことなのかな」と。

身近な「あめりかー」

 私が沖縄に住んでいた頃は基地内で開催されるフリーマーケットに行った話とか,基地内のでバイトをやっているという話とかあって,自分とはそれほど直接関係がなくてもどこかで生活の端々に「基地」が登場するのですよね。

 もちろん,沖縄に住んでいる人でももっと違う関わり方をしている人もたくさんいますし,ぜんぜん関わりがないという人もいるでしょう。

 一方で,米軍・基地関係のさまざま事件・事故・トラブルも身近な出来事の1つでしたし,小学生の遠足は南部戦跡巡りでしたし,慰霊の日に関する特別な戦争関係の授業もありました(慰霊の日は今でも東京やつくばで黙祷しています)。沖縄市出身で「コザ暴動」で有名なコザは高校の通学経路でした。実家は上空を米軍機が通りその時にはまったく会話もできずテレビの音も聞こえないというのが日常茶飯事でした。

 私に関して言えば,小学生の頃から「基地」は「善か悪か」だけで捉えられるものをこえた複雑な存在でした。いくら強調して足りないのは,沖縄にもいろんな人がいて,基地への関わり方や思いもさまざまだろうということです。それでも沖縄のひとたちが選挙等で何度も何度も「基地はいやだ」という意志表示をし続けているということはやはり重いのではないでしょうか。

 もちろん具体的な問題は命に関わるものまでいろいろあるわけですが,この「基地」という存在が生まれた頃から身近にあり,それとの付き合い方について考えたり悩んだりすることに否応なく向き合わされるということも「基地問題」の1つなのではないでしょうか。もちろんこれは他の地域にも似たような問題があるのでしょうけれど。

dlit.hatenablog.com

 私は今は沖縄の住人ではありませんが,沖縄でそれなりに暮らした人間として,また定期的に里帰りする人間として,沖縄の人々が生まれながらに背負わされるこの問題から少しでも早く良い形で解放されることを祈っています(多少の行動もしていますししていきます)。

「ネット」での沖縄

 ところで,下記の2つの記事で「ネトウヨ」の話が取り上げられているのが少し気になりました(この表現は個人的にはあまり好きではないのですが…)。

www.buzzfeed.com

www.buzzfeed.com

私もけっこう昔からいわゆる「2ch」には触れていたのですが,こういう方向には行きませんでした。その大きな理由の1つに,その場で発される「沖縄ヘイト」に反発したということがあります。学部生の頃なんかは腹が立って自分で文献や資料を調べたりしたこともありました。

 私は大学教員・研究者として中国の方との付き合いも少しあるのですが,中国関連の話題でも感じるのは,webにある誤った情報に対抗するためにはいろいろ具体的な話にどこかで触れられるのが重要なのではないかということです。

 沖縄のことに限りません。自分の気になる話題について具体的な情報や体験談などがある人は,ぜひどこかで書いてみてほしいと思います。ただ単なる体験談ですら思いもよらないひどい言葉を浴びせられたりウソ認定されたりしてしまうのが「ネット」のつらいところですけれど。

野球関係?の表現についてちょっと補足

祝西武優勝

というわけでid:rosechildさんのブコメに少しだけお返事です。

dlit.hatenadiary.com

ヒロイン=ヒーローインタビュー、は野球独特のclippingでしょうか。他のスポーツなんかでもいうのかな。打線がホカホカとかは微妙?冷え冷えはオノマトペかも微妙
http://b.hatena.ne.jp/entry/371833862/comment/rosechild

 「ヒロイン」については以前他のスポーツか何かで用例を見かけたことがあった気がするのですが,ちょっと検索してみると野球関係だと認識している人が多いようですね。野球からの流用だったのかもしれません。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

気になる表現を検索して見ると誰かが知恵袋で怒ってるってのはよくあるパターンなんですが,上の記事はかなりきつい言い方ですね。アウトプットが4モーラで特殊拍が消えているだけなので短縮としては一般的だと思います。複合語短縮ですが「パ(ー)ソ(ナル)コン(ピュータ)」なんかが形としては似ているでしょうか。短縮に言及する際に「それほど短くなってない」というツッコミは割とよく見ますが,労力を減らすため(だけ)に短くしているということでもないので。

 「ホカホカ」「冷え冷え」はメタファー詳しい人に解説をお願いしたいです。オノマトペ以外のものがオノマトペに似た振る舞いをすることはあります。たとえば名詞「とげ」が重複 (reduplicate)して「とげとげしている」となるとアクセントパターンがオノマトペに似るのですが(cf. きらきらしている),「冷え冷え」はそんな感じはしないですね。「冷え冷えしている」がそもそも言えなそうなので厳密な検証が難しいのですが…動詞連用形の重複で状態を表すのだと他に「きれ(っ)きれ」とかがありますかね。