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歯切れが悪いのは仕様です。

入江聖奈選手を素晴らしいアスリートだと思った出来事

下記の張本勲氏の発言に関する記事を見て,ブログにも記録として残しておこうと考えました。

www.j-cast.com

入江聖奈選手のこともボクシングのこともそれほど詳しくないのではてブのコメント・Twitterで簡単に触れるにとどめていました。該当ツイートもはっておきます。

それほど付け加えることはありません。オリンピック開催の数週間前のサンデースポーツをたまたま見ていたら入江選手のけっこう長い語りを放送していて,そこでコロナ禍で競技を続けることやオリンピックに出ることへの葛藤について話していました。医療従事者など大変な状況にいる人にも触れていたと記憶しています。

もう一ヶ月以上前なので発言の詳細については覚えていないのですが,自分の考えを自分のことばで語っているという印象が強く残っています。このようにしっかり話をできるアスリートがいることは,ボクシングやスポーツにとって非常に良いことだとも思いました(必ずしもすべての選手がそうでなくてはならないとは思いませんが)。

オリンピックの開催前から今まで,アスリートが自らの言葉で何か言うべきだという意見を定期的に見かけます。中にはこういうアスリートもいたのですよ。オリンピックに参加したことそのものを問題視するような人もいるかもしれませんが,このように社会との関わりも踏まえながらその分野のことについて自分の考えを語ってくれる人の存在は,スポーツに限らず重要ではないでしょうか。

個人的には,「難しいですね」とか「選手も悩んでるんですね」といった紋切り型の表現で短く片付けてしまうメディアの方がこのような人たちのことばや語りをうまく受け止められていないようで問題ではないかと思います。

オンラインと対面のハイブリッドで演習の授業・受講生の発表をどうやるか(実践例)

はじめに

今年度,学部の演習の授業を対面+同時双方向オンライン配信のハイブリッド(ハイフレックス型)という形式でやっています。講義形式の部分のやり方(環境や使用機材など)については下記の記事を見てみて下さい。

dlit.hatenadiary.com

この記事では,学生が担当する発表の部分をどうやったかという点について簡単にまとめておきます。少しでも何かの参考になれば幸いです。

授業の条件と方法

演習の授業なのですが,私の講義の授業を取らなくてもある程度言語学に関する基礎知識や慣れがあれば受講できるとしています(ちょっと変わっているかもしれません)。これには講義と演習が隔年開講の関係にあるとか教職の教科に関する科目になっているといったいくつかの要因が関わっていて,どちらかというと仕方ない選択という感じです。

心理・教育系とか情報系から来た受講生が面白い発表するといったことも多く,人文系の受講生にとっても刺激になっているのではないかと考えています(ただ受講生によっては発表の準備が大変になっちゃうことも)。

こうやって広く受け入れることにしているので受講生がだいたい20-30名くらいになってしまい,受講生の発表枠の確保が大変です。

授業への参加は教室に来て対面で受けても良いし,オンラインで受けても良いとしています。また,毎回好きな方を選んで良く,私の対する報告などは一切必要ありません。最初の方は教室で参加する受講生が多かったのですけれど,後半はオンラインから参加する受講生の方が大多数になりました。理由は特に聞いていませんが,感染状況の悪化,前後の授業の形態との兼ね合いなど複合的な要因があるのではないかと考えています。

今回のポイントは2つです。

  1. 受講生の発表は録画したものを提出
  2. 質疑応答はすべてテキストチャットで行う

なお前期の発表の内容は日本語の文章研究に関する文献を1つ選んで報告(批判までやる)です。ただ「文章研究」の範囲はかなり広く取っていて,相談があれば対象言語も日本語に限りません(過去には英語のほか,ドイツ語やロシア語に関する文献の発表もありました)。第2言語習得や言語教育もありです。後期はこれを踏まえて自分でデータを取って分析して発表という予定です。

発表は録画

受講生の発表はリアルタイムで行うのではなく録画したものを提出するという形にしました。

理由の1つ目として,自分が話しているものを録画して評価してもらう形式に慣れるのも良いのではと考えたことが挙げられます。まず,学会発表でも録画という形式を取っているところがあります(オンライン開催に伴う緊急時の措置という側面もあるでしょうけれど)。また,就職活動の面接でも動画を録画して提出させるところがあるようです(今年は減ってるのかな)。

2つ目の理由として,私が(研究発表に関しては)リアルタイムでのやりとり以外のやり方もいろいろあって良いのではないかと考えていることがあります。対面会話での議論の重要性も十分承知していて,学問をやる上では完全には避けて通れないという考え方も分かります。ただ,私は大学での勉強や研究の良さの1つにゆっくり/じっくりやっても良いということがあると思うのです(即座に対応するのが苦手な人や熟考型でも参加/活躍できる)。録画という形式は口頭発表でその良いところを実現してくれるのではないかと考えて試してみました。

方法

  1. Microsoft Teams(以下Teams)の「ファイル」に受講生が発表を録画した動画のファイルと発表資料をアップロードする
  2. 私が提出された動画ファイルをMicrosoft Stream(以下Stream)にアップする:Teamsで授業のチームに参加している人しか視聴できないように設定できる
  3. 私がStreamの動画のリンクをTeamsの発表チャンネルに投稿として1つ1つ貼り付ける:コメントで質疑応答をやるため。Streamのコメント欄だと複数の動画のコメントを一覧するのが大変
  4. 受講生は授業の日までに発表動画を視聴しておく

発表動画はどのようなスタイルでも良いとしたのですが,あまり慣れている人がいなかったのか,結果として全員が授業でやり方を紹介したスライドに直接音声を付ける形式を選んでいました。

かなり心配してたのですけれど,予想よりかなり質の良い動画・発表が多く安心しました。この1年でかなりコンピューターに慣れたということもあるのでしょうか。

やってみて考えたこと

このやり方だと受講生が多くても発表枠の確保に悩まなくて良いです。これまでの授業では発表枠を確保するためにグループでの発表にするというようなことをやっていました。また,1つの授業(筑波大は75分)に2つの発表と質疑応答を入れていたため質疑応答もかなり慌ただしくなることがけっこうあったのですが,それにも悩まされないのは良かったです。

一方で難しいなと感じたのは発表の方法へのアドバイスです。私の授業では演習科目へのイントロ・慣れという目標も掲げていて(ほかの厳しい演習科目への入口として)発表のやり方,発表資料の作り方に関する具体的なアドバイスもやってきました。でもリアルタイムと録画では良い方法が異なることもあるのかなと。

たとえばリアルタイムでの発表では聞いてる方がついていくの大変だからスライドの情報を少なくするようにとアドバイスすることが多かったのですが,録画だと途中で止めたり視聴し直したりできるのである程度1つのスライドに情報をまとめる方が見やすいということもあるのかもしれません。もちろんそれでも詰め込みすぎは分かりにくくなっちゃうので程度問題ではあります。

録画を使った発表のノウハウって蓄積が進んでいるのでしょうか。とりあえず私の授業ではリアルタイムと録画の違いと気をつけた方が良いポイントについて触れ,リアルタイムの発表をする場合の注意点についても話しておきました。

テキストでコメント

TeamsやZoomを使ったフルのオンライン授業ならリアルタイムの発表と質疑応答であまり問題ないのですけれど,ハイブリッドだと対面(教室)とオンラインの音声をつなぐのが意外と大変です(教室の設備にもよる)。やり方がないわけではないのですけれど,時間がないとちょっと厳しいと思います(たとえばマイクを共有にすると意外と時間がかかるし感染対策も…)。

実はこれ,id:yearman さんの授業(やはり受講生の発表があるもの)を見せてもらった時にテキストでコメントする方法って良さそうだなと思ったのですよね。

方法

  1. Teams上で動画へのリンクになっている投稿に直接質問などをコメントする
  2. 発表者は自分の動画にコメントが付いたら直接返信する
  3. 動画がアップされたらどのタイミングでもコメントを付けて良い:授業時にやらなくても良い
  4. 授業日には私から各発表動画へのコメントや解説・補足をする時間を取るが,この時もコメントや返答をしてOK:ほかの人のコメントを見たり私の話を聞いて出てくるアイディアもあるかもしれない

やってみて考えたこと

これまでの音声でやっていた質疑応答ではどうしても特定の限られた人しか質問・コメントしないという流れになりがちだったのですが,このやり方だと時間を気にせず全員何かコメントしてねということができます。以前は授業時間内で質問・コメントできなかった人のものはリアクションペーパーのようなものを配って書いてもらっていました。

質問・コメントの量・質どちらを見ても全体としてはかなりやりとりが活発に行われたと言えるでしょう。特に受講生は研究発表を聞くことにも質疑応答にもあまり慣れていませんので,時間を取って質問・コメントを考えたり返答したりできることが大きかったのではないかと思います。

一方,ほかの参加者から注目され状況,限られた時間の中で手を挙げて質問・コメントしたりそれに応えるという練習にはもちろんなりませんでした。これまでほかの授業でまだ手を挙げて質問やコメントをした経験がなければこの授業で体験していってくださいということもすすめていたのでこの点はちょっと残念です。

おわりに

そこまで予想外に困ったということは出てこなくてほっとしました。リアルタイムの発表でも発表者が遅刻して冷や冷やするということがあったので(発表者が来ないというのは今のところないです)もしかしたら発表動画が提出されないという事態もあるのではと覚悟していたのですけれどそれもなし。期日までに動画を提出すれば良いので当日に大きく体調を崩して無理をおして発表するということも起きませんね(たとえば発表日に新型コロナ陽性や濃厚接触者になって自宅待機でも発表に参加できる)。

できれば受講生にはリアルタイムでの発表も体験してほしいので,後期は録画ではなくリアルタイムでの発表をしてもらう形で計画を考えています。これからの感染状況の推移にもよるので後期までにはなんとか落ち着いてほしいですね。今のところ感染状況もワクチン接種も見通しは暗いですけど…

あと,私の授業には該当者がいないのですけれど,たとえば聴覚障害を持っている受講生がいる場合にもテキストチャットは1つの手段になるのではないでしょうか。オンラインの学会発表でも(特に国際学会では)そういう誘導ありますよね。

学生の反応としては,期末レポートに良いやり方だったという感想がいくつかありました(感想は希望者のみ書いて良いとしています)。特に,止めたり複数回視聴したりして分からないところを確認できるのが良いというものが多かったです。ただ,私の体感だとそもそもレポートの感想はポジティブなものが書かれがちなので参考程度に考えています。ほんとうは参加者にいろいろ聞いてみた方が良さそうですがなかなかそこまで手が回らず。

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