体調を崩壊させて言語学会@茨城大に参加できなかった代わりと言ってはなんですがすでにあやふやになりつつある記憶を頼りにちょっと雑感。どちらかというと印象の話が多めです。
余談だけど予稿集の表紙にタイムスケジュール&会場の情報、裏表紙に会場の地図が印刷してあるのは素晴らしいアイディアだと思った。予稿集を開きながら、時にページをめくりつつ歩き回るの大変だよね。
なお、プログラムは以下を参照。
シンポジウム「話し言葉と書き言葉の接点」
定延利之「話し言葉が好む複雑な構造―きもち欠乏症を中心に」
面白いコントラスト・言語現象も出てきたが、「きもち」がどういうものなのか、それが言語(表現)とどのように関係しているのかについての説明が少なく、かなりもやっとした。特に形態を中心に文法を考えている人は色々反論したくなったのではないか。屋名池氏が詳細なコメントを書いたらしいが全カットされたのが残念。聞きたかった。きっと色々アイディアはあったのだろうけど時間が足りなすぎた印象。
野田春美「書きことばにおける話しことば的表現」
ツイッターやブログの言語表現を取り上げていて興味深かった。「疑似独話」というのがキーワードだったのでしかたないところだけど、ツイッターの独話的な発話が会話・対話につながっていくようなプロセスが「読み手への意識」やコミュニケーションというようなことを考える上では面白いのではと感じた。
田中ゆかり「「打ちことば」とヴァーチャル方言」
周囲に聞くと氏の研究や「打ちことば」を知らない人も結構いたので、これを機に研究する人が増えると良いなと思う。ヴァーチャル方言の話は以前からやっていると思うけどブログ検索を用いて分析するという手法は前からやってたっけ。gooブログ検索の評判分析で示される話者の「地域」と話者自身の属性がどれぐらい強く結びつけられるのだろう、という点が気になった。これは技術的に詳しい人の解説が聞いてみたい。
野村剛史「明治前期の手紙文に見られる「口語体」」
手紙の口語体は明治期の口語体普及(言文一致)に影響を及ぼしたということはなく、むしろゆっくりと普及し、結果として小説などの言文一致の後を追うことになった、という分析。当時の手紙(東京)がすぐに相手に届くシステムの元でやりとりされていたこと、漱石や子規といった書き手の教養・リテラシーの高さなど言語外的な要因にも丁寧に言及しているところが良かった。
全体
コミュニケーションに焦点を当てるなら談話研究や会話分析の専門家、メディア(特にブログやツイッターなど)の性質に焦点を当てるならコーパスやNLPの専門家の絡みがほしかった(コメンテーターとか)。ちなみに質問紙でメディアの性質が言語に与える影響について質問したのだけれどそこはカットされた。野村氏が他の登壇者に積極的に質問していて、もう少し受け手が応戦するか、野村氏が突っ込み続けたら面白いやりとりになったのでは、と思ったのだけれどそこまではいかず残念。
全体としては面白い話のタネは色々見えたけどどうも論点が絞り込まれずもやっとしたまま終わった印象。それがシンポジウムとしては良いのかもしれないけど。裏のワークショップ「テキストを使った方言研究から見えてくること―危機方言の調査と記述―」に行っても良かったかなあとちょっとだけ後悔。
ブース発表
高山林太郎「四モーラ畳語の情態副詞と形容動詞のアクセントの通時的考察」
方言の分布から通時的変化や祖形を導き出すやり方については判断できないけれども(でも結構慎重にやっていた印象)、アクセントパターンと強調や繰り返しといった意味?が連動しているという現象だけ見ても大変興味深い。聞いている時は思わなかったけど畳語をどのような語形成として考えているかによってアクセントの分析方法も違ったりしてこないだろうか。こないかな。色々聞いて離れてしまったけど残って方言や通時の方の研究者とのやりとりを聞けば良かった。
吉永尚「否定接続に見る意味と構造の相互関与―ナイデ、ナクテ、ナク、ズを例として―」
話聞きたかったんだけどずっと盛況で近寄れず。そのうち時間切れに。残念。
研究発表
黒木邦彦「上甑島方言の(形態)音韻類型論」
何回か聞いている甑島方言シリーズ。質問もしたのだけれど名詞と助詞の境界が明瞭でないような場合があるという現象が興味深かった。定義によるけど分析次第では接辞っぽい助詞みたいな位置付けもできるのかな、と。でもその後教えてもらったところではそんなに簡単な話ではないようだ。
松田真希子・庵功雄「限界性を有する事態に対する否定の応答形式をめぐって」
タ形の質問に対してタ形で答えるかテイル形で答えるかという有名な話をアンケートで幅広い世代に調査。世代でところどころ有意差が見られるという結果に。個人的には設問に不定(wh)疑問や確認のような疑問が入っているなど、細かい条件をそんなに統制してないように見えたのが気になった。気になったけど質問が殺到してたので質問できず。
旧大阪外大出身の方々とお話し
久しぶりに少しゆっくり話せて良かった。学会で顔は合わせることがあっても、なかなかすれ違いということも多かったので。
ポリー・ザトラウスキー「試食会におけるモダリティとエビデンシャリティの連鎖について」
よくわからない食べ物の正体を考えるというタスクでの複数人会話におけるモダリティ形式・エビデンシャリティ形式の振る舞いを記述したもの。なんか日本語話者は色々な形式を使うらしい。質問が出なかったのでじゃあ、と質問してみてすべりました、はい。今回は日本語の記述・分析ということだったのだけれど、部分的にでも英語との対比があるとよりわかりやすかったのでは。
おわりに
いつも書いてますが、発表無い時でも学会に行って危機感あおられまくるのが良いですね。懐かしい顔にも、初めての方にも出会えて良かったです。オフ会は途中退席せねばならず残念(実は結局終電かなりぎりぎりだった)。
あと昨日書いたエントリなんかよりこういう報告を地道に書き続ける方が専門家のブログとして王道なのではと思ったので書いておくことにしました。