誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

メールによるレポート提出に関する体験と雑感

これまで,自分の授業では紙媒体をレポートボックスに提出,メールに添付,学習管理システム(LMS: Learning Management System)で提出,のすべてを試したことがありますが,今はLMSの提出に統一しています。LMSは今のところに着任した時はmoodleだったのですがすぐにmanabaに切り替わりました(せっかくいろいろ覚えたのに…)。

news.yahoo.co.jp

さいきんゼミの連絡をLINEに移行したという話は前に書きました。今のところ快適です。特に人数多いと便利ですね。

dlit.hatenadiary.com

さて,LMSによる提出が紙媒体による提出よりもメール添付よりも提出の事故やトラブルとそれに関する対応が最も少なくて済むというのが私の体感です。

メール添付提出だと,締切間際や直後に「突然パソコンがおかしくなった」「突然ネットがつながらなくなった」「パソコンに飲みものをこぼしてしまった」ので,提出が遅れる/遅れたという連絡がけっこう来ました(いずれも本当に複数もらったことのある内容です)。こういう事態にどれぐらい厳しく対応するのかというのは教員によると思うのですが,どうするにせよ,考えて対応しなければならないという点でかなりの時間と手間が取られるのですよね。

その点,LMSはそういう「言い訳」的なことは一切考慮してくれません。今でもそういう連絡は来るには来ますが,メール添付提出の頃よりは明らかに減りました。

あと,LMS提出だとメールアドレスの打ち間違いや学生からのメールがスパム判定されるというトラブルもないですね(これもどちらも実際に何回かあったもの)。提出が学生のアカウントと紐付いているので,こちらも課題の管理が楽です。以前同クラス(必修の授業)に同姓同名で漢字もまったく同じ受講生がいたことがありましてね…さすがにこれは過去1回だけですがクラス分けでもうちょっと考慮してほしかった。

ちなみに紙媒体でレポートボックス提出だと,他の授業のレポートが間違って提出されるというというような事故があります。

LMSを使い始めて気付いた特有の事故としては,他の授業の課題のファイルを間違ってアップロードしてしまうというものがありますね。学生の皆さんはお気を付けて。

追記(2019/07/11)

こういうことを書くとLMS一択じゃん,と思われるかもしれませんが,非常勤講師だとLMSを使えないというようなこともあるので,個々の事情を見ないで「なんで使わないのか」ということは簡単には言えないと思います。さいきんの流れだと非常勤講師も使えるようにしているところがほとんどではないかと思いますが。

野球の記事で使われていたラグビー由来の表現「ノーサイド」

ちょっと前に,ある分野で使われている表現の意味・用法が一般的に拡張される現象について少し書きました。

dlit.hatenadiary.com

球技で用いられる表現由来のものとしては圧倒的に野球が多いという印象だったのですが(他だと,たとえばサッカー由来の「イエローカード」とか?),ラグビー由来の「ノーサイド」について,次の実例が気になったので記録しておきます。

竹中事務局長は(中略)「私からは、生徒を思う気持ちがあっての行為だったと一定の理解はしているけれどあの場はゲームセットでノーサイドとなっているところ。ああいう行動は取らないでほしいし、反省してくださいと伝えた」と説明した。
星稜・林監督の“サイン盗み抗議” 謝罪受けた高野連側は追加処分なしの方針(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース

「試合が終われば敵味方の区別・対立がなくなる」というところから,「水に流す」的な意味で使われる例はそれほど珍しいものではないと思うのですが(詳しくは未調査),野球の競技の話で出てくるのがちょっと面白いなと思いまして。

でもこの用法,BCCWJでも1件しか見つからず,しかもモータースポーツに関する文章に出てきているようなので,むしろラグビー以外だとその他のスポーツの話で使われやすいのかもしれませんね。

ちなみに,国語辞典の記述が気になってアプリ版の日国,大辞林,新明解,明鏡で引いてみたのですが,ほとんどが「ラグビーにおける試合終了」のような非常に簡潔な記述で用例もなく,日国と新明解だけ「敵味方の区別がないという意味」のような補足があるだけでした。

赤とんぼとかうなぎとか(言語学の話)

 いわゆる「赤とんぼ」の絶滅の危険性に関する記事を見る度に書こうと思いつつ,いつも通りなかなか手が付けられなかったのでごく簡単に。

webronza.asahi.com

言語学と生き物の名前

 言語学では,ある言語現象を指す際に生き物の名前が使われることがあります。

 日本語だと「うなぎ文」と呼ばれるものがありまして,うなぎの絶滅関係のニュースが出ると詳しい人が「うなぎ文の説明をする前にうなぎ自体の説明をしなきゃいけない時代が来るのか」みたいなことを言っているのを見かけたことがある方もいるかもしれません。英語だと「ロバ文 (donkey sentence)」辺りが有名ですかね。

赤とんぼとアクセント

 さて,「赤とんぼ文」といった用語や現象があるわけではないのですが,「赤とんぼ」という名前を聞くとアクセント研究のことが思い浮かびます。

 童謡「赤とんぼ」の冒頭部分の「赤とんぼ」のメロディーがかつての東京方言のアクセント(頭高型)を反映して最初の「あ」が高いパターンになっているという話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。検索してみたらWikipediaでも言及されていました。

ja.wikipedia.org

 私は音声・音韻はあまり詳しくないのでこの辺りの文献をいろいろ読んでいるわけではないのですが,以前の東京方言で5拍名詞に頭高型が多く「赤とんぼ」もそうだったこと,「赤とんぼ」がその調査語彙に含まれていることは事実です。たとえば,下記で紹介されている複数の調査でも実際に「赤とんぼ」が出てきています。

東京弁アクセントの変容

東京弁アクセントの変容

 ちなみに,いわゆる『アクセント辞典』の「アカトンボ」の項目では「(伝統 ア]カトンボ)」という頭高型に関する補足がありますが,

NHK日本語発音アクセント辞典 新版

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2016年に刊行された『アクセント新辞典』の方ではその記述はなく,中高型(アカト]ンボ)のみが記載されています。

NHK日本語発音アクセント新辞典

NHK日本語発音アクセント新辞典

うなぎ文

 うなぎ文については妙に日本語特殊論に引きつけた言及がされることがあるので,何か少し解説でもと思っているうちにこれまたなかなか手が付けられずにいます。

 ある程度専門的に考えたい人は,ぜひ研究の出発点の1つである

「ボクハウナギダ」の文法―ダとノ

「ボクハウナギダ」の文法―ダとノ

を読んでみて下さい。記述や分析に初期の生成文法が用いられているのでとっつきにくいかもしれませんが,実はこの時点でかなり詳細な記述がなされています(日本語の研究者でさえ,この本自体は読んでないのではないかという人をたまに見かけます)。

 また,他の言語でも似たような現象はありそうだという点についても第2増補版では触れられています。この後いろいろ別の研究も出ていると思いますが,この本では英語,ドイツ語,フランス語,ポルトガル語,韓国語,中国語での可能性とさまざまな実例が紹介されています。

生き物の名前と言語学

 話を最初のポイントに戻すと,月並みな言い方ですが,言語学の話をするときに「○○という生き物が昔はいてね…」みたいな前置きはできるだけしたくないですね。

 ほかに似たような組み合わせは,と考えてみたところ「人魚構文」と「ジュゴン」というのを思いついたのですが,ちょっと強引すぎるでしょうか。