誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

横山秀夫『動機』

動機 (文春文庫)
半落ち (講談社文庫)』で有名な横山秀夫の短編集です。もう丸二年ぐらい前の作品ですが、横山秀夫はこれが初めて。ホントはホラー小説が一番好きなんですが、最近あまり良いと思える作品に出会わないので、推理小説系に流れてます。

なんでホラーが好きかというと「終わり方がなんでも(badやdeadでも)ありだから。」何もハッピーエンドが嫌い(笑)とかっていうわけではありません。予想できない終わり方が好きなだけで、そのためにはなるべく選択肢が多い方が良いような気がするってだけです。
ドラマでも小説でも映画でも、最後まで見ようと思う一番の動機は、「これ、どうやって終わらせるんだろう」ってところにあります。もちろん僕の場合。

なんでそんなことをわざわざつらつら書いたかというと、この作品、4つの独立した短編が入ってますが、ほとんど全て終わらせ方に感心させられたからです。
僕は性格上、新しい情報が出てくるに比例して展開や終わり方を想像してしまいます。推理するのではなく、開示されている情報から考えうるできるだけの選択肢(世界)を想像して、そのまま増やしていくのです。やな読者っすよね(苦笑)なので、推理小説でもなかなか「ああ、その選択肢は思いつかなかった」ってことは無いのですが…この本には結構やられました。
さらに感心すべきは読後感が悪くないというところです。あまりに想像できないようなラストを持ってくる作品には、無理やりなストーリー/論理展開や突然の過度な隠されていた情報の開示、ただ不幸になるだけ…などなど読後感の悪さが伴うことが多いのですが、この作品では「意外さ」と「読後感の良さ」が共存していると感じられるものが多かったのです。どんな良さかもうちょっと詳しく述べると、「なんだか救われたなあ」って感じでしょうか。

しかも、短編で、です。短編/長編のどちらが好きかと言うことは無いです。まあどちらにも長所/短所があるのでそれを上手くクリア、さらには生かしてあれば良いのですが、読むのが早いので(周囲の評価もそうらしい)どちらかというと長編を良く読みます。京極夏彦とか好きですし。
そんな僕でも、読んだ後は結構満足しました。これもなかなかない体験です。個人的な感想ですが、文庫では全五巻にもなる宮部みゆき『模倣犯』より全然満足しました。

嬉しくなって、すぐに『陰の季節 (文春文庫)』も買ってしまいました。『半落ち』はしばらく楽しみにとっておこうと思います。