誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

(自虐としての)人文学は役に立たないとかなんとか

 次の記事に関連して以前から思っていたことを少し。

きみらは人文系なの?違うなら人文系について語るのはやめてください、お願いだから。
で、きみらは人文系なの?

 僕は専門は言語学ですので、一般的には「人文系」だと認識されていると思います。まあ末席かもしれませんが、少しは書いてもいいかなと。
 別に人文学を代表して何かを言いたいわけではありませんし、人文学について何かを一般化したいわけでもありません。というか、元々学問分野の分類や「〜な/の人」への一般化について慎重に考えたいと思っています。興味がある方は以下のカテゴリでまとめられているエントリを参照してください。

 ところで三年ぐらい前から「人文学と人文科学と科学」というタイトルのエントリの下書きが眠り続けているんですが、まだしばらく日の目を見ることはなさそうです(ていうか誰か書いて)。

人文学にも色々ある

のブコメにも書いたんですが、一般化に対しては厳しい基準を持っているはずの(人文系の)プロの研究者でも、自分の分野の話をそのまま「人文系は…」という風に拡大しちゃうのってたまに見ます。なので一番上の増田が「人文系(というか国文学)」と書いているところは誠実だなーと思います。
 さて、文学とか他の人文系の分野には言語学に理解があったり、中には自身が言語学に相当明るい人も多いんですが、中には「あいつらただの語学屋で学者じゃねーよ」みたいなひどいことを言う人もいるので、もしかしたら言語学やってる人に人文学を語ってほしくないみたいな人はいるかもしれません。
 僕自身はそこまで学際的な研究をしているわけではないのですが、今授業を担当している学科(学類)には、哲学、史学、考古学・民俗学、言語学の4つの専攻がありますし、研究会などでは文学の研究者と話や議論をすることもあります。
 だから色々語れるぜ、っていうわけではなくて、こうしているだけでも人文学って色々あるんだなあと実感するのですよね。さらにそれぞれの分野に近接領域や学際的な側面があることを考えると、「人文学」ってくくりでは広すぎてなかなか語るのが難しいのではないかと思います。あとたまに「○○学」の話としながら、実質的には「○○学部/学科にいる人」についての話になっているのも見かけますね。これも重なるところはあるんでしょうけれど、ずれるところも色々あるかと。

教員や院生の言うことは鵜呑みにしないのがおすすめ

 さて、学部時代に自分で「人文学は役に立たない」という結論に到達した人にはもうちょっと色々調べてみてと言うしかないのですが、「教員や先輩(院生)」が「人文学は役に立たない」と言ってたから自分もそう言うようになった/考えるようになったという人は注意してほしいと思います。
 なぜかというと、そういうのが本音の場合もあるかとは思うのですが、それは

  1. 自戒:自分たちの学問が役に立つと思い込んで研究してはいけない、役に立つことのみを追いかけないように注意しなくてはいけない
  2. 葛藤:役に立つのかどうかということと常に向き合って(向き合わされて)いるところから出てくる苦しみ

だったりすることもあるので、その辺りのことを知らないまま、あるいは体験しないまま、口まねだけするのはおすすめできないのです。まあ最初はそういう口まねから入って、徐々に成長・勉強していくということもあるかもしれませんが、こういう自虐は半分ぐらいネタで、実際に「何の役に立つの」と言われたら色々答えを持っている教員や院生もいたり。
 個人的には、一般的にも、教員や院生の暴言・自虐ネタみたいなのはあまり真似しない方が良いと考えています。ただ口が悪い人もいると思うのですが、その暴言や自虐ネタの裏には、矜持や覚悟や経験があったりすることもあるのです。院生であれば、でかいこと言いつつも、自分の研究を叩かれまくって成長していくので良いかもしれませんが…
 そもそも、そういう「人文学は役に立たない」みたいなことを言っている教員が辞書の執筆なんかに関わってしっかり世の中の役に立ったりしているかもしれませんよ。この辺りは、「○○学が役に立つか」ということと「私の(好きな)研究は役に立つか」を混ぜて語る人もいるので注意が必要ですね。
 僕自身は(一見すぐには)役に立たない研究が意味が無いなどとは全く思いませんし、役に立つことを第一目標にかかげている研究もかっこいいと思います。ただ、内輪ネタとしてではなく「○○学は役に立たない」と公言しすぎているのを見ると、もしかしたら隣接領域とか全く関連がなかった分野とかで、思わぬ人が役に立ててくれるかもしれない可能性だってあるのに、そこまで決めつけなくても、と思うことはありますね(内輪ネタと公言の区別が付きにくくなっちゃうことがあるのがついったーとかの難点ではありますが)。
 じゃあお前の研究は役に立つんかいと言われたら苦しいところではありますが、これ以上は「役に立つ」の定義というか範囲を決めないとあまり実りのある話にはならなそうです。