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歯切れが悪いのは仕様です。

理工系を目指す中高生向けアカデミックライティングの授業を終えて雑感

 下記の授業が終わりました。

プロジェクトのサイトにも報告があがっています。

何をやったか

 75分で1回の授業ということで内容についてはかなり迷ったのですが、結局

  1. 事実と意見(とか判断とか主観)の区別は重要だが難しい
  2. 学問では根拠・証拠を示すことが求められ、「理由」とはずれることもある
  3. 学術的な文章の型としてのパラグラフライティング入門

を重点的に紹介しました。
 やはり内容としては盛り込み過ぎで、ポイントポイントでクイズ等は挟んだものの、実際に文章を書く時間は取れませんでした。これはこの授業の性質上、トレーニングの実施を優先するより、考え方やコツのようなものを持ち帰ってもらう方が良いだろうと判断したからです。

授業の様子

 参加者は30名でうち10人ぐらいが中学生、残りが高校生でした。
 内容としてはけっこう抽象的なので消化不良にならないかどうか心配だったのですが、反応や質問から見る限りでは思ったより大変ではなかったのかも。具体例やクイズをその分思いっきりシンプルにしたのが良かったかな。でもその分、こういう取り組みを自身の学校でやっている受講生にとっては退屈というようなこともあったかもしれません。
 授業中にも授業後にも質問があり、また授業中の問いかけにも反応がないというようなことがなく、授業をやる側としては楽しかったです。こういう受講生のモチベーションが高いタイプの授業では珍しいことではありませんが。

質問と回答

 授業後に受講生からもらった質問が印象的だったので少しだけ簡単にメモしておきます。当日実際にあったやりとりとはニュアンス・表現が異なる可能性があります。

Q1: 授業中に教師から問いかけがあるとその後しばらく自分の思考に集中しすぎてしまって、授業後に質問に行ったら「それは授業で話したよ」と言われることがあり、質問に行くのを躊躇してしまう

A1: 本当に授業で話されたかどうかは確認しないとわからないし、詳しく話すことで自分と教員の言っていることが違うと判明する可能性もある。実際、研究者間でも最初は同じ話や意見だと思っていたことが話し合いや議論の中で違うとわかることもある。嫌がられたら大学の先生(私)に聞きに行った方が良いと言われたと言って良い。
 というわけで教員の皆さん、(釈迦に説法でしょうが)こういう生徒・学生もいるということを踏まえて、できるだけ寛容に対応いただけると嬉しいです。

Q2: 言語技術(語学)のパフォーマンスはスポーツなどに似て調子の波があるという話があったが、調子が悪いときはどのように対処すれば良いか

A2: まず授業でも話したように、必要とされる水準より高いレベルに平均が来るような技術・知識を身につけるのが理想。テストやプレゼンのようにいつ重要なのかが分かっている場合は体調を整えておくのが意外と重要。また、私自身がやっていることとしては、困った時、失敗した時のための具体的な準備をしておくというのがある。たとえば英語のプレゼンで言葉につまった時に使えるフレーズをあらかじめ原稿とは別に用意しておくとか。こういうのは人によるので、自分に合ったやり方やスタイルを早くから探しておくと良いのではないか。

Q3: 難しい専門書を読むのに良い方法はありませんか

A3: 対象が古いものであれば。後の研究者が解説を書いてくれていることがあり、参考にすると良いかもしれない。ただ専門家が書いたもので的を外したものがあったりするし、良いとされている解説が自分にとって分かりやすいとは限らないので、(可能なら)複数読んで比較対照する。また、そもそも学術的な文章だと現在の自分の能力や知識では理解できるレベルにないということがあるので、他の本を読んだり何かの勉強をした後だと理解できるようになるということがどの分野でもある。

おわりに

 いろいろ初めての体験だったので準備から大変だったのですが、大変良い勉強になりました。こういう体験をするたびにライティング教育関連ももっと力を入れてやりたいと思うのですが、時間がなあ。

関連書籍

 タネ本はほとんどいつもと同じです。
 事実と意見の区別については

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

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の他に、
大人のための国語ゼミ

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も参考になりました。まだ部分的にしか読んでないのですが大人以外にもおすすめしたい本ですね。
 根拠・証拠と理由の違いについては
新版 論文の教室 レポートから卒論まで (NHKブックス)

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の論証の話をベースにしています。
 また、結城浩氏の
数学文章作法 基礎編 (ちくま学芸文庫)

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数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)

もおすすめとして挙げたのですが、「数学ガール」の名前を出したらけっこう反応がありました。全部読んでいるという受講生もいて、やはり人気あるんだなあと。
 また、中高生向けという点については、前のエントリでぎーもさんにご紹介いただいた

と、

ライティングの高大接続?高校・大学で「書くこと」を教える人たちへ

ライティングの高大接続?高校・大学で「書くこと」を教える人たちへ

を読んで勉強しましたが授業内容にどこまで反映させられたかどうかは微妙です。反省。