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歯切れが悪いのは仕様です。

テニス2020全米オープン雑感(大坂なおみ選手の優勝に寄せて)

はじめに

いくつかはてブのコメントにも書いたのですが,大坂なおみ選手がシングルスで優勝したテニスの全米オープンについていくつか感じたことなどをもう少し書いておきます。

ちなみにまだ男子シングルス決勝が残っているのですが,その結果を待っているとまた時間がなくなりそうですので,もうこれで上げてしまいます。ちなみに,個人的にはティーム選手を応援しています(まず1回グランドスラムを取ってほしい…そろそろ「BIG3」に直接勝って優勝できそうな感じも出てきていましたが)。しかしセミファイナルは競るだろうと思っていたのでストレートで勝ったのは驚きました。

私自身は小学生~大学生の期間テニスをやっていて,プロの試合もWOWOWで実家に住んでいた子供の頃から見ていました。ただ最近はやることはぜんぜんありませんし,見る方もファンと言えるほどではないでしょう。特に全米オープンは時間帯が合わなくてあまり見れませんし,そこまで詳しくないただの素人のやや長い感想だと思ってください。

「いつも」と違っていたこと

いきなりですが,私はグランドスラムの,特に決勝などの注目度が高い?試合の観客があまり好きではありません。盛り上がりすぎてプレーに干渉することがある(ラリー中の歓声はしかたないと思う場合もあるのですが,選手のサーブのタイミングに干渉するのは…)のがどうも好きになれないのですね。あれは極端なケースだと思いますが,有名な全仏オープンの女子シングルス決勝のヒンギス対グラフの試合の観客はひどかったと今でも強く印象に残っています。

そんな私でも,やっぱり観客の歓声がないとさびしいなと思う場面はけっこうありました。特に,素晴らしいプレーが出た後の拍手がないのはさびしいですね。あと,特に試合自体やプレーが素晴らしかった場合に敗れた方の選手にも大きな拍手が贈られることがあるのですが,あれはあった方が良いなと感じました。

テニス経験者の1人としてこの状況で衝撃を受けた大きな変化として,試合終了後の握手がないということがあります(その代わりにお互いのラケットを合わせています)。試合終了後に握手をするというのはテニスの素晴らしい慣習の1つだと思っていたので,残念ですね。激闘の後に選手同士がハグして声を掛け合うというのも当然見れないシーンになってしまいました。

大坂なおみ選手のプレーへの賞賛

大坂なおみ選手の試合はすべてを見ることができた訳ではないのですが,全体を通して素晴らしいパフォーマンスだったと思います。グランドスラムをすでに2回取っているわけですからすでにトッププレーヤーであることは間違いないのですが,私の印象ではまた強くなったんじゃないかと。

対戦相手のコメントでもよく出てきていましたが,まずサーブで良くポイントを取れていました。しかもここは大事というところで出るエース。大きなチャンスやピンチに強力なサーブ一発で局面を有利にできるのは「王者」の特徴の1つではないかと思うのですが,今回はそういう場面が多かったように感じます。今は女子テニスでもかなり速いサーブを返せる選手はけっこういるのですが,1stサーブが入った際のポイント獲得率がずっと高かったのでコースが良くなったとか技術的,戦術的な向上があったのではないでしょうか。決勝ではサーブのスタッツはそこまで突出してはいなくてむしろ相手の1stサーブのリターン率の高さが目を引きましたが。

フットワークを含めたストロークも素晴らしかったです。以前だったらここ無理矢理打ってたんじゃないかなという場面でうまく展開してポイントを取るというシーンがけっこうあったように思います。しかもただ我慢してつなぐというよりは,緩急を付けたり球種を変えたりすることもありコースも良いところに行っていて,やはり技術的,戦術的な向上があったのではないかと感じました。個々のショットの強力さは元々すさまじいものがありましたが,この技術であれだけ展開できると相手はかなり厳しいのではないでしょうか。

また,グランドスラムは長い期間(優勝までだと約2週間)継続的に良いパフォーマンスを持続するというのが難しいポイントだと思うのですが(時には試合が深夜に及ぶことも),それを見事に乗り切ったところも素晴らしいと思います。見る方としてはどうしても個々の試合にフォーカスしてしまいますが,大会前から大会中のコンディショニングやマネージメントはチームの力を借りられるところだとは言え難しいところだと思うのでその点でもすごいですね。

私は,大坂なおみ選手はまず今大会見せてくれたテニスのプレー面でのパフォーマンスにおいて大きな賞賛,祝福を受けてほしいと思いました。もちろんすべての選手にとってそうであってほしいのですが,やはり優勝したという事実を置いておいてもすごかったですよ。

で,失礼ながら,その「賞賛,祝福」という点では表彰のセレモニーを見ていて大坂なおみ選手はアンラッキーな王者だなと感じてしまいました。もうあまり覚えていない人も多いかと思いますが,全米オープンではじめて優勝した時のセレモニーでも私は大坂なおみ選手はやや不遇な状況に置かれてしまったという記憶があります。対戦相手だったセリーナ・ウィリアムズ選手のテニス史,アメリカ,アメリカのテニス界における存在の大きさを考えると致し方ないことだったのかもしれませんが…それで今回の優勝では無観客です。もちろんこれも仕方ない状況下ということはあるのですが,その分,別の場,別の形で大坂選手が十分に賞賛,祝福される世界であってほしいです。

ちなみに,決勝の相手であったアザレンカ選手も素晴らしいパフォーマンスでした。特に最終セット,何度も2ブレークアップになりそうなところまで押されていたのにしのいで,さらにブレークバックして急激に状況が変化したところは,見ている方としては追い付かれた方は嫌な展開だなと感じさせられました。さすがというプレーも随所にありましたね。試合の後でwebで「(大坂なおみ選手の)相手はやりにくかったのでは」という意見を見て驚きました。もちろんこれも選手本人に確認しないと分かりませんが,私はあれだけの試合,パフォーマンスをした選手にそのようなコメントをする気にはなれませんね。

マスクと「メンタル」のこと

これからメディアなどでは「マスク」に象徴される黒人差別問題に関する活動が大坂なおみ選手をメンタル面で後押ししたというような話が出るでしょう(あるいはもう少し長いスパンでの「メンタル面の成長」的なストーリーになるのかもしれません)。そういう種類の記事はもう出ている気がしますし,WOWOWの実況・解説者からもそういう観点は出ていたようです。

もちろん実際にそうであったのかもしれませんし,私自身は確認できていませんが大坂なおみ選手が自身でそれを表明している(あるいはこれからする)かもしれません。私は上に書いたような技術や戦術のレベルの高さがまず正当に評価されてほしいと思います。それに加えて,確かに今大会では「メンタル」面でも大きく崩れることがなかったなという印象は持ちました。しかしそれもメンタルコントロールの「技術」が向上したということがあるのかもしれません。そもそも前哨戦で棄権すると表明する前も良いパフォーマンスを見せていたと思います。もし大坂なおみ選手の「メンタル」の話をするのであれば,スポーツにおける技術としてのメンタルコントロールの観点からのもの(できれば専門家の手によるもの)が記事などの形で出ると嬉しいです。

優勝者としてのスピーチでは自身から個人差別問題に言及することはありませんでした。その後のインタビューで質問が出たので答えていましたけど,メディアによる取り上げられ方の大きさに比して,大坂なおみ選手自身の「アピール」は非常に限定されていたというのが今大会を通じての私の印象です。たとえば,表彰セレモニー後にコートを出る際にしていたマスクは名前入りのものではありませんでした(よね?コートに入るときの映像を見れなかったので…)。意図して「限定的」に言及・活動していたのかというのは,本当のところは本人に確認しないと分かりませんけれども。

プレーヤーとしてのリスク

さいきん,スポーツ選手としてこの黒人差別問題のようなことに言及したりなんらかの(リ)アクションを取ることが賞賛されたり推奨されたりする(のはどうなの)というのが話題になっているようですが,(リ)アクションを取るということであれば,たとえばインタビューで話題が出た際にしっかり意見を表明するということだけでも良いというのが私の感覚です。

今大会でのマスクに関する行動や前哨戦での棄権(の表明)はプレーヤーとしてはリスクの高いものでしょう。この辺りはテニスのツアーに詳しいプロのジャーナリストの記事などに期待したいところですが(もうどこかで出ているかもしれません),特にトッププレーヤーの棄権は状況,条件によってはかなり厳しいペナルティが課される可能性もあるのではないでしょうか。また,今はweb(特にSNS)を通して選手に直接「攻撃」することも比較的容易という観点から見てもリスクは高そうです。

さいきんの黒人差別問題に対する大坂なおみ選手の行動は,自身の生業であるテニスのプレーやプロ選手としての活動そのものに負の影響を与える危険性までを考慮した上でのものであることが広く受け入れられ,その選択が尊重されると良いなと思います。

余談

ジョコビッチ選手の失格に関することもせっかくなので何か書こうかと思ったのですが,長くなってしまいましたし大したことは書けませんのでこの辺りで止めておきます。これもテニス(の技術やルール)に詳しい人のもう少し詳しい解説がwebにあると良いなと思います。

追記(2020/09/14)

ティーム選手優勝おめでとうございます!あの状況,コンディションであのパフォーマンス,素晴らしいとしか言いようがありません。