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歯切れが悪いのは仕様です。

【修正】iOSアプリ版『NHKアクセント新辞典』のデータに関する記事は誤解でした

iOSアプリ「辞書 by 物書堂」内で購入・使用できる辞書に『NHK日本語発音アクセント新辞典』(以下,『新辞典』)が追加されました。

www.monokakido.jp

NHK日本語発音アクセント新辞典

NHK日本語発音アクセント新辞典

  • 作者:HASH(0x55cacc2910b8)
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2016/05/24
  • メディア: 単行本

このアプリでは『日本国語大辞典』も購入・使用することができ,私がスマホをiPhoneに変えた理由の1つになっている存在とさえ言えます。

修正前に書いてあった以下の内容は,私が紙媒体版に付されている記号を誤解したために誤った指摘になっています。紙媒体版でも「あかとんぼ」等の頭高アクセントは記述されており,修正前の記事に書いてあったような「アプリ版と紙媒体で内容が違う」ということはありません。申し訳ありませんでした。

記事自体消すかどうか迷いましたが,一度公開してしまいましたし,事情がよく分からなくなってしまうと思いますので取り消し線を付けるようにしておきます。

## 紙媒体版と内容が異なる

さて,以前こんな記事で「あかとんぼ」のアクセント(の変遷)について書きましたので,まずは試しに「あかとんぼ」を引いてみました。

dlit.hatenadiary.com

アプリでの表示は下記のようになっています。このうちの,2つ目の「ア\カトンボ」というアクセント(いわゆる頭高型)は紙媒体の『NHK日本語発音アクセント新辞典』には載っていないアクセント(p.9)です。音声データもきちんと聞けますから,間違って載せたということはないような気がします。ちなみに,「\」はアクセントの位置(ピッチの急激な下がり目)を表しています。

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『NHKアクセント新辞典』アプリ版の「あかとんぼ」の項目

紙媒体と内容の相違点があるというだけでも問題かもしれませんが,実は何かの理由で情報が追加になったというようなこともあるかもしれません。しかし,事情はもう少しよろしくないように思います。なぜかというと,上で紹介したブログ記事に書いたように,この「ア\カトンボ」というアクセントは旧バージョンのアクセント辞典(以下,『旧辞典』)ですら「伝統」という情報付きでカッコ書きされていた,かなり古いアクセントなのです。従って,紙媒体の方の『新辞典』で削除されたというのはよく分かります。しかし,上のアプリ内の表示では,他の複数のアクセントがある場合と同様に併記される形で復活しています。これでは『旧辞典』より情報が不正確になってしまっているように見えます。

いわゆる東京方言ではかつて5拍名詞に頭高が多く出る傾向があるということについては研究があって上記ブログ記事でも紹介しているのですが,もしかしたらと思って他の5拍名詞で調べてみたら,少なくとも「えんのした(縁の下)」でも「あかとんぼ」とまったく同じ現象が起きていることを確認しました。

最初はもしかしたら単に1項目だけ変なことになっているのかもしれないと思っていたのですが,1) 体系的に不正確な情報が含まれている可能性がある,2) 使用に際して支障が発生しそうな現象である,3) 『旧辞典』,『新辞典』の紙媒体とアプリ版のすべてを所持していてかつ内容の違いに気付いたり調べられる人が少なそう,という辺りの事情を考慮して今回記事にすることにしてみました。

タイトルに「【暫定】」と入れてあるように,何らかの説明や対応がなされた場合はこの記事についても修正します。あと,内容で上記のような問題点を見つけた方は報告すると良いのではないかと思います。報告は物書堂のサイトの問い合わせから行うと良いようです。『旧辞典』で「伝統」と付いていて『新辞典』で削除されたアクセントはかなり限られているようなので,現状でも使用上そんなに問題はないのかもしれませんが…

繰り返しになりますが,このアプリと販売されている辞書自体は貴重でありがたいものです。これを機会に,というのは変な気もしますが今まで触ったことがなかった方はアプリをダウンロードして辞書のラインナップを見てみるなどしてみはどうでしょうか。

2019年の研究活動まとめ

論文などが集中して出た年だったので記念に書いておきます(もうこんな年ないかもしれない)。

今年の成果は,

論文:4(紀要1,論文集収録3,いずれも単著),編集(論文集):2,proceedings: 1(共著),研究ノート:1,書評:1,口頭発表:2

でした。proceedingsだけ英文です。

私の通常のペースから言うと異常に集中した年だったのですが,がんばった成果というよりは,いくつか遅れたのでたまたま刊行年が重なったというところもあり,あまり良いことばかりではありません。ご迷惑をおかけしたみなさま,辛抱強く付き合ってくださりありがとうございました。ただ,年内に書いたものでまだpublishされていない論文が3本(英文1,和文2),書籍1冊(こちらはまだ執筆中)があるので,いちおう書く方も例年よりはがんばったような気がします。

以下,関係した書籍のリンクをはっておきますので今一度なにとぞよろしくお願い申し上げます。あと関連記事として各論文等の紹介記事もはっておきます。

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「「博士」生かせぬ日本企業」と人文社会系(文科省の資料メモ)

ちょっと前に下記の記事が話題になっていましたが,

www.nikkei.com

これを見た時に私が真っ先に思い出した文部科学省の発表した資料があります,下記の「2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿 ~社会を先導する人材の育成に向けた体質改善の方策~」という長いタイトルがついた審議のまとめです。

www.mext.go.jp

これが公開になった際もwebではそれほど話題になっていなかったような記憶があるのですが,私も言及する機会を逸していましたので,少しだけ気になったところを紹介します。

人文系博士人材の雇用創出は日本では困難

上記の資料で具体的な改善方策を述べているところの項目の最後に「⑧人文・社会科学系大学院の課題とその在り方」というのがあります。「(本文)」となっている資料だと pp.46-52 です。

全体としては読む前に予想していたより慎重に議論しているなと感じました。個人的には「Society 5.0」がどうしてもあやしく感じてしまうのですが,人文社会系の分野がさまざなテーマ・分野とつながる可能性についても言及しています。

私が気になったのは,キャリアパスに関する言及の仕方です。下記の指摘の部分でまず「おお,その話題に触れるのか」と思いました。

個々の学問分野の専門的知識というレベルを超えて、人文・社会科学系大学院でこそ身に付く普遍的なスキル・リテラシーや幅広い能力を創出し、可視化していく努力や、社会のニーズに対応した新たなタイプの人材養成目的の模索・キャリアパスの開拓が引き続き求められる。
(中略)
その際、インテル社(アメリカ)、アディダス社(ドイツ)、レゴ社(デンマー ク)では、消費者の行動や思考、社会の潮流など、統計的手法を用いて一律に解析することが困難な現象について、人文・社会科学系の専門的知識や研究手法を用いて分析し、その結果を活用した経営を行うことで事業改善につなげている事例があるとされている 。こうした事例を、単なるペーパーワークにとどまらず、 企業の命運を左右する経営判断という重大な局面においても、人文・社会科学系のスキル・リテラシー等が重要な役割を果たしている好事例として、キャリアパスを考える上で参考とすべきである。
(p.49)

この話題に触れること自体は好ましく思ったのですが,次に私が予想したのは「大学ががんばってそういう雇用が創出されるようになんかがんばれ」という流れでした。では実際にどう書かれているかというと…

諸外国において、人文・社会科学系の博士課程修了者を含む高度な専門性を有する人材が多く養成され、様々なセクターで活用されている中で、国際的なプレゼンスを発揮するためには、我が国においてもそうした高度な専門性を有する人材の活用を進める必要があるが、現在のところ、大学以外における人文・社会科学系の博士課程修了者の専門性の活用事例はそれほど多く見られていない。今後は、経営判断等の重大な局面においても人文・社会科学系のスキル・リテラシー等を活用する企業等も、キャリアパスの一つとなることが期待されているものの、 当面は、大学における教員や研究者として、その専門性を活用していくことが大きなウェイトを占めると考えられる
(p.51,強調はdlit)

さすがに「企業側にも意識や制度の改革が求められる」みたいなことは言ってくれないだろうとは思っていたのですが,なんか急に「現実的」になってしまっている気がします。

好意的に捉えると冷静で地道な提言ということなんかもしれませんが,こういう資料では大学側に無茶振りされることも多いので,こういう資料ですら人文社会系の博士人材を日本の大学外で活かす道については希望を見出せないのだなと考えてしまいました。

ただこういう議論や資料を「へー」って眺めてると突然無茶振りの形になって大学とかに降ってきたりしますので,その都度誰かが言及して話題にしていると良いのではないかと思います。皆さん忙しすぎてなかなか時間はないと思いますが。