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歯切れが悪いのは仕様です。

オンラインと対面のハイブリッドで演習の授業・受講生の発表をどうやるか(実践例)

はじめに

今年度,学部の演習の授業を対面+同時双方向オンライン配信のハイブリッド(ハイフレックス型)という形式でやっています。講義形式の部分のやり方(環境や使用機材など)については下記の記事を見てみて下さい。

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この記事では,学生が担当する発表の部分をどうやったかという点について簡単にまとめておきます。少しでも何かの参考になれば幸いです。

授業の条件と方法

演習の授業なのですが,私の講義の授業を取らなくてもある程度言語学に関する基礎知識や慣れがあれば受講できるとしています(ちょっと変わっているかもしれません)。これには講義と演習が隔年開講の関係にあるとか教職の教科に関する科目になっているといったいくつかの要因が関わっていて,どちらかというと仕方ない選択という感じです。

心理・教育系とか情報系から来た受講生が面白い発表するといったことも多く,人文系の受講生にとっても刺激になっているのではないかと考えています(ただ受講生によっては発表の準備が大変になっちゃうことも)。

こうやって広く受け入れることにしているので受講生がだいたい20-30名くらいになってしまい,受講生の発表枠の確保が大変です。

授業への参加は教室に来て対面で受けても良いし,オンラインで受けても良いとしています。また,毎回好きな方を選んで良く,私の対する報告などは一切必要ありません。最初の方は教室で参加する受講生が多かったのですけれど,後半はオンラインから参加する受講生の方が大多数になりました。理由は特に聞いていませんが,感染状況の悪化,前後の授業の形態との兼ね合いなど複合的な要因があるのではないかと考えています。

今回のポイントは2つです。

  1. 受講生の発表は録画したものを提出
  2. 質疑応答はすべてテキストチャットで行う

なお前期の発表の内容は日本語の文章研究に関する文献を1つ選んで報告(批判までやる)です。ただ「文章研究」の範囲はかなり広く取っていて,相談があれば対象言語も日本語に限りません(過去には英語のほか,ドイツ語やロシア語に関する文献の発表もありました)。第2言語習得や言語教育もありです。後期はこれを踏まえて自分でデータを取って分析して発表という予定です。

発表は録画

受講生の発表はリアルタイムで行うのではなく録画したものを提出するという形にしました。

理由の1つ目として,自分が話しているものを録画して評価してもらう形式に慣れるのも良いのではと考えたことが挙げられます。まず,学会発表でも録画という形式を取っているところがあります(オンライン開催に伴う緊急時の措置という側面もあるでしょうけれど)。また,就職活動の面接でも動画を録画して提出させるところがあるようです(今年は減ってるのかな)。

2つ目の理由として,私が(研究発表に関しては)リアルタイムでのやりとり以外のやり方もいろいろあって良いのではないかと考えていることがあります。対面会話での議論の重要性も十分承知していて,学問をやる上では完全には避けて通れないという考え方も分かります。ただ,私は大学での勉強や研究の良さの1つにゆっくり/じっくりやっても良いということがあると思うのです(即座に対応するのが苦手な人や熟考型でも参加/活躍できる)。録画という形式は口頭発表でその良いところを実現してくれるのではないかと考えて試してみました。

方法

  1. Microsoft Teams(以下Teams)の「ファイル」に受講生が発表を録画した動画のファイルと発表資料をアップロードする
  2. 私が提出された動画ファイルをMicrosoft Stream(以下Stream)にアップする:Teamsで授業のチームに参加している人しか視聴できないように設定できる
  3. 私がStreamの動画のリンクをTeamsの発表チャンネルに投稿として1つ1つ貼り付ける:コメントで質疑応答をやるため。Streamのコメント欄だと複数の動画のコメントを一覧するのが大変
  4. 受講生は授業の日までに発表動画を視聴しておく

発表動画はどのようなスタイルでも良いとしたのですが,あまり慣れている人がいなかったのか,結果として全員が授業でやり方を紹介したスライドに直接音声を付ける形式を選んでいました。

かなり心配してたのですけれど,予想よりかなり質の良い動画・発表が多く安心しました。この1年でかなりコンピューターに慣れたということもあるのでしょうか。

やってみて考えたこと

このやり方だと受講生が多くても発表枠の確保に悩まなくて良いです。これまでの授業では発表枠を確保するためにグループでの発表にするというようなことをやっていました。また,1つの授業(筑波大は75分)に2つの発表と質疑応答を入れていたため質疑応答もかなり慌ただしくなることがけっこうあったのですが,それにも悩まされないのは良かったです。

一方で難しいなと感じたのは発表の方法へのアドバイスです。私の授業では演習科目へのイントロ・慣れという目標も掲げていて(ほかの厳しい演習科目への入口として)発表のやり方,発表資料の作り方に関する具体的なアドバイスもやってきました。でもリアルタイムと録画では良い方法が異なることもあるのかなと。

たとえばリアルタイムでの発表では聞いてる方がついていくの大変だからスライドの情報を少なくするようにとアドバイスすることが多かったのですが,録画だと途中で止めたり視聴し直したりできるのである程度1つのスライドに情報をまとめる方が見やすいということもあるのかもしれません。もちろんそれでも詰め込みすぎは分かりにくくなっちゃうので程度問題ではあります。

録画を使った発表のノウハウって蓄積が進んでいるのでしょうか。とりあえず私の授業ではリアルタイムと録画の違いと気をつけた方が良いポイントについて触れ,リアルタイムの発表をする場合の注意点についても話しておきました。

テキストでコメント

TeamsやZoomを使ったフルのオンライン授業ならリアルタイムの発表と質疑応答であまり問題ないのですけれど,ハイブリッドだと対面(教室)とオンラインの音声をつなぐのが意外と大変です(教室の設備にもよる)。やり方がないわけではないのですけれど,時間がないとちょっと厳しいと思います(たとえばマイクを共有にすると意外と時間がかかるし感染対策も…)。

実はこれ,id:yearman さんの授業(やはり受講生の発表があるもの)を見せてもらった時にテキストでコメントする方法って良さそうだなと思ったのですよね。

方法

  1. Teams上で動画へのリンクになっている投稿に直接質問などをコメントする
  2. 発表者は自分の動画にコメントが付いたら直接返信する
  3. 動画がアップされたらどのタイミングでもコメントを付けて良い:授業時にやらなくても良い
  4. 授業日には私から各発表動画へのコメントや解説・補足をする時間を取るが,この時もコメントや返答をしてOK:ほかの人のコメントを見たり私の話を聞いて出てくるアイディアもあるかもしれない

やってみて考えたこと

これまでの音声でやっていた質疑応答ではどうしても特定の限られた人しか質問・コメントしないという流れになりがちだったのですが,このやり方だと時間を気にせず全員何かコメントしてねということができます。以前は授業時間内で質問・コメントできなかった人のものはリアクションペーパーのようなものを配って書いてもらっていました。

質問・コメントの量・質どちらを見ても全体としてはかなりやりとりが活発に行われたと言えるでしょう。特に受講生は研究発表を聞くことにも質疑応答にもあまり慣れていませんので,時間を取って質問・コメントを考えたり返答したりできることが大きかったのではないかと思います。

一方,ほかの参加者から注目され状況,限られた時間の中で手を挙げて質問・コメントしたりそれに応えるという練習にはもちろんなりませんでした。これまでほかの授業でまだ手を挙げて質問やコメントをした経験がなければこの授業で体験していってくださいということもすすめていたのでこの点はちょっと残念です。

おわりに

そこまで予想外に困ったということは出てこなくてほっとしました。リアルタイムの発表でも発表者が遅刻して冷や冷やするということがあったので(発表者が来ないというのは今のところないです)もしかしたら発表動画が提出されないという事態もあるのではと覚悟していたのですけれどそれもなし。期日までに動画を提出すれば良いので当日に大きく体調を崩して無理をおして発表するということも起きませんね(たとえば発表日に新型コロナ陽性や濃厚接触者になって自宅待機でも発表に参加できる)。

できれば受講生にはリアルタイムでの発表も体験してほしいので,後期は録画ではなくリアルタイムでの発表をしてもらう形で計画を考えています。これからの感染状況の推移にもよるので後期までにはなんとか落ち着いてほしいですね。今のところ感染状況もワクチン接種も見通しは暗いですけど…

あと,私の授業には該当者がいないのですけれど,たとえば聴覚障害を持っている受講生がいる場合にもテキストチャットは1つの手段になるのではないでしょうか。オンラインの学会発表でも(特に国際学会では)そういう誘導ありますよね。

学生の反応としては,期末レポートに良いやり方だったという感想がいくつかありました(感想は希望者のみ書いて良いとしています)。特に,止めたり複数回視聴したりして分からないところを確認できるのが良いというものが多かったです。ただ,私の体感だとそもそもレポートの感想はポジティブなものが書かれがちなので参考程度に考えています。ほんとうは参加者にいろいろ聞いてみた方が良さそうですがなかなかそこまで手が回らず。

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kindleの夏のセールで開拓社の言語学関連書籍が50%オフ(8/5(木)まで)

kindle本夏のビッグセールで開拓社の言語・文化選書の一部が対象になっています。8/5日(木)までですけれど,言語学関連で良いものがけっこうあるので興味のある方はチェックしてみてください。私のブログでも何度か取り上げているとおり,このシリーズはkindleのセールに良く参加しています。

www.amazon.co.jp

くれぐれもセールの期限にはご注意ください。またこのシリーズの本すべてが50%オフにはなっていない可能性もありますので,購入前は必ず値段(+割引率)のチェックをしてください。

各分野の入門書

私もこのシリーズすべてに目を通しているわけではありませんので,中身を確認したことがあるものからいくつかおすすめを挙げておきます。

実際にはあまり専門知識がなくても読めるものからけっこうしっかりした専門の入門まで幅があります。学部の専門の授業や大学院の授業でテキストとして使えるものもあるので,学部生,大学院生や近接領域の研究者だけでなく,自身の専門でない分野の授業を担当することになっ(てしまっ)た教員の方などは電子版で(も)持っていると助かることがあるのではないでしょうか。

音韻論

田中伸一『日常言語に潜む音法則の世界』

音韻論・形態論(語形成)

窪薗晴夫『ネーミングの言語学―ハリー・ポッターからドラゴンボールまで―』

レキシコン・形態論(語形成)

日本語文法・統語論

岸本秀樹『文法現象から捉える日本語』

慣用句

石田プリシラ『言語学から見た日本語と英語の慣用句』

言語と認識

廣瀬幸生・長谷川 葉子『日本語から見た日本人』

専門書

開拓社の専門書もセール対象になっているものがあります。この中では特に『形式意味論入門』は前のセールのチェックの時には見なかったので嬉しいです。

そのほか

以下は,主に購入予定か購入したけれどもきちんと読めていないものです。内容を(しっかりとは)確認していないものばかりですので,おすすめというわけではありません。あくまで参考まで。ただ李在鎬『認知言語学への誘い』は少なくとも言語関係の研究者は著者買いしても良いんじゃないかなと。あと池内正幸『ひとのことばの起源と進化』はたしか以前のセールの時には対象ではなかったような。

東京オリンピック開始1週間のテレビ番組(主にNHK)雑感

はじめに

オリンピックが開始してから1週間のNHKの番組がホスト国のメインの放送としてはあまりにもひどいと思ったので簡単に記録しておきます。なお,NHKの番組にずっと張り付いているわけではなく,仕事・家事育児の合間に見ているだけですので私が見ていないところで下記で述べるようなこととは違う放送が十分行われている可能性はあります。また,民放で良い番組が放送されている可能性もあります。

なお,私はスポーツは好きだけど今回の東京オリンピック・パラリンピックには反対という立場ですので,厳しめのバイアスがかかっている可能性はあります。

また始まった直後にこんなことを書きましたので

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もともと良い印象は持たないまま見ていたということもあります。この時,もうオリンピックについては書かないと書いているのですけれど,さすがにひどさが予想を超えてきたので…

ところでなんでひどいひどい言いながら結局見てるんだと不思議に思われる方もいるでしょう。一番の理由はテレビ放送そのものとその周辺のディスコースを自分で体験しておいた方が良いんじゃないかということです。私はCDA (Critical Discourse Analysis)が専門というわけでもないですし,スポーツ関係の言語現象も自身の研究対象になることはそれほどないのですけれど(たださいきんのテーマの1つである外来語研究には関連します),主査や副査を担当する学位論文(主に卒論)のテーマとしてスポーツと言語の関わりが出てくることが定期的にあります。新聞等は後でコーパスなどのテキストデータを見れば良いことが多いのですけれどテレビは後で実際のデータを振り返るのが大変なこともあるんですよね。

こういう放送があったという記録

どちらもTwitterではその時に簡単に触れています。

体操のバイルス選手に関する発言(2021/07/31)

体操女子でアメリカのバイルス選手がメンタルヘルスを理由に棄権しかなり話題にもなっていました。

www.bbc.com

途中からぱっと見たので前の文脈がよく分からなかったのですが,体操女子の何かの競技終了後(女子総合個人?),スタジオにいる(おそらく)NHKの人から「バイルス選手が棄権したので他の選手は目の色を変えてたんじゃないですか」といった内容の発言がありました。細かいところは違っているかもしれませんが,「目の色を変える」という表現が使われたのは確実です。その表現にぎょっとしてしっかり見始めたくらいです。

競技会場の返答は「素晴らしい選手なので見られないのは残念です」といったような内容だったのでほっとしました。返答した人のファインプレーと言えるのではないでしょうか。

しかし,バイルス選手の棄権の理由に関わらず,ひどい発言だと思います。仮に特定の選手がいなくなったことでほかの選手が有利という事実に触れるとしても,もっと別の表現があるのではないでしょうか。この質問が直接選手に投げかけられなくて良かったです。

ゴルフ松山選手のプレーの扱い(2021/08/01)

松山英樹選手が3位決定のプレーオフに挑んでいたところで,パーパットを外してメダルの可能性がなくなった瞬間に中継を打ち切ってスタジオへ移りました。少なくとも直後はその後のプレーを流さず,しかもすぐにほかの競技に中継を変えなければならないのかと思っていたらしばらくはスタジオにいる人たちが話す時間でした。もしかしたらプレーオフになったことで放送の時間がかなり厳しくなっていたといった理由があったのかもしれませんが,さすがになんとかして松山選手のプレー終了までは放送することができなかたのでしょうか。

この点については下記のように外した時点でプレー終了だったということを教えていただきました。

最初に書いていた「NHKは「メダルの可能性がないなら放送する価値がない」と考えていると受け取られてもしかたないやり方だった」というのは言い過ぎですね。私の認識と事実の把握も間違っていたということで,申し訳ありません。

そのほか

こちらは,どちらかというと「こういうものがない」というタイプの話ですので,私が見ていないところでは出てきていた可能性が十分にあります。

日本以外の国・地域の扱い

上で書いた2つのケース以外にも全体としてスポーツやアスリートへの敬意がない放送内容が散見されますが,特にホスト国にも関わらず「他国からこういう厳しい状況の中参加してくれて素晴らしいパフォーマンスをしてくれた/ている」という視点や表現が少ない気がします。

たとえば7/31日のトランポリンの実況でも,失敗した選手のスコアが出るのを待たずに日本の選手の決勝進出をアナウンスするということがありました。私の感覚ではせめてスコアが出るのを待つべきではないかと思います。ただほかの選手の失敗をどれくらい喜んで良いかというのは競技によって違ったりもしますのでトランポリンでは珍しくないことなのかもしれません。

日本の選手でも結果が出なかった(メダルが取れなかった)選手の扱いは少ないという点では首尾一貫しているように見えます。「勝つことよりも…」というオリンピック関連の有名なフレーズはさいきんでは触れられることもなくなったのでしょうか。

また,いちおうメダル数のランキング表のようなものは作っていませんが,ナレーションで「日本が金メダル数で1位になりました」のようなことは言っていますよね。少なくとも1回は確認しました。

コロナ禍への言及

これは上でも触れた記事に書いたのですけれど,番組の中でスポーツに直接関わっていない多くの人たちがコロナ禍で苦しんでいることへの言及がとても少ないと感じます。競技直後のアスリートの短いインタビューでそこまで触れることは難しいかもしれないので,スタジオにいる人がフォローした方が良いのではないでしょうか。

今回は特に,苦しんでいる人,本来できるはずのことややりたいことができない人も多い中で競技ができていることを自覚しているというメッセージをスポーツに関わる人たちが積極的に出していくべきではないかと考えています。たとえば東日本大震災の時はアスリートから「こういう状況の中で自分が競技をやっていて良いか迷いますが…」といった声が競技後のインタビューなどであったような記憶があるのですけれど。

おわりに

放送が局所的にある程度応援的になるのはしかたないのかもしれません。ただ私の見るところ,アナウンサーなどNHK側の人がむしろ日本寄りのことを言い,解説など競技により近い人の方がより冷静でフェアな発言をしている場面を見かけることが少なくなく,放送局としては問題ではないかと思います(逆ならまだ気持ちも分かるんですけどね…)。

確かに,メジャーな競技に関しては長年関わってきた人がいたり,マイナーな競技に関してもたくさん勉強して実況に挑んでいる人がいたりするかもしれません。しかしその前にスポーツに関するフェアネスやオリンピック・パラリンピックの精神のようなものは学んだり確認したりしないのでしょうか。

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