誰がログ

歯切れが悪いのは仕様です。

学生から大学教員宛てのメールについてちょっとだけ

先日こんな記事を書いたのですが,

dlit.hatenadiary.com

いただいた反応を見ていて,やっぱり「変じゃない?」ということだけ書いてじゃあどうすれば良いかっていう話を書かないと読んだ方はもやもやすると思うので,少しだけ補足を書いておきます。

メールに対する考え方

先の記事でも書きましたが,メールに対するスタンス・考え方はコミュニティや個人によってかなり違うことがあります

特に,私が個人的に話を聞いたり調べたりした範囲の話ですが,理工数系の分野では,メールに簡潔な使い方,表現が好まれることが少なくないようです。

これは,メールが手紙等の文書に比べて簡略的な連絡手段であることの現れ(たとえば,今でも時候の挨拶を省くことはかなり一般的ではないでしょうか)ではないかと思うのですが,その経緯はよく分かりません。関係があるか分かりませんが,上記で挙げた分野以外でも,コンピューターに早くからなじみのあった方はやはりそういう簡潔なメールを好む傾向にあるという印象があります。私はそこまで強い信念があるわけではないですが,その感覚自体は分かります。

今後,メールよりさらに簡略的で文体が「話しことば」的になりやすいLINEやSlack等の新しいコミュニケーション手段の登場でメールが相対的にフォーマルに位置づけられ,今までより固い文体が好まれるようになっていくというようなこともあるかもしれません。

書く方としては悩むポイントの1つになってしまう事情なのですが,自身が(あるいはメールの受け手が)所属しているコミュニティの文化がよく分からない場合は,選択できる範囲で丁寧な方の表現を使う方がコミュニケーション上のトラブルを避けられるでしょう。

これは教える方としても難しいところで,私の授業では授業でやったやり方を使って不利益が生じた場合は「文章表現の授業の教員がそう言ってた」と私のせいにして良いという話もします。いちおう今のところ苦情はないです。教職員の皆さんも学生が自身の価値観や経験をすぐに狭めてしまわないように,ある程度は寛容であってくれると嬉しいです。

検索する

さいきんは,大学教員自身がメールの書き方についての情報を公開していることがありますので,検索するというのも1つの方法です。まだ数は少ないようなので,自分がメールを送りたい相手がそういう情報を公開している可能性には期待しない方が良いと思いますが,大学(教員)に特有の事情や表現についても触れられていることがあって参考になるでしょう。たとえば,下記の松岡氏のサイトの文例では「お世話になっております」は出てきません。

user.keio.ac.jp

検索の方法としては,googleだとドメインで絞り込むのが1つのやり方でたとえば「site:ac.jp メール 書き方」のように書いて検索します。最初の「site:ac.jp」というのが検索する範囲を制限する条件指定になっています。

この方法だと単に大学や研究機関のサイトから検索してくるだけなので検索結果が必ずしも大学教員が書いたものとは限りませんし(研究室の院生や事務の方が書いているかもしれません),メールソフトの使い方のような情報も出てきますが,やったことがない方は試してみてください。ちなみに,「レポートの書き方」も同じ条件で調べると今はいろいろな情報が出てきます。さいきんだと,ツイッターにこういうことを書いている大学教員もけっこういると思うのですが,ツイッターは検索が難しいのですよね。

「お世話になっております」の代わりに

「お世話になっております」を気持ち悪いと言われてもじゃあどう書けば…という気持ちもよく分かります。かといって「こんにちは」も変な気がしますよね。

上で紹介したページの文例にもありますが,私のおすすめは最初に自己紹介を書くことです(特に定型表現のあいさつは必須ではない)。用件に合った自己紹介から始めることで,内容にスムーズに移れるという点も良いです。たとえば,

  • 【授業(レポート等)に関するメール】「○○概論」を受講している△△△△と言います。
  • 【学園祭に関するメール】学園祭実行委員の△△△△と言います。
  • 【そのほか(奨学金等)に関するメール】○○学部□□学科1年生の△△△△と言います。

「授業で話したこともあるのに自己紹介するのは変では…」と感じられるかもしれませんが,大学教員は場合によってはかなり多くの学生と接していますので,よっぽど日常的にコミュニケーションをしているような場合を除いて,自己紹介から入ってくれると助かるのではないかと思います。教室に行って顔を見れば誰か分かるけれど,メールの文面で名前だけ見ても誰だかすぐには同定できないなんてこともあるかもしれません(これも教員によって違うところです)。

そのほか

日本語が第一言語でない学生(留学生)は,メールが苦手なこともあります。さいきんはコンピューター等電子機器による日本語教育にも力が入れられていると思いますが,第二言語ではデバイスやツールが異なることによる困難さが増大されることがあるようです。

私が以前日本語の授業を担当していた時,教室内での作文(手書き)はかなりのレベルで,会話でもある程度敬語等使いながら話せるのに,メールはかなりできない学生がいて驚いたことがあります。

ほかにも,ゼミや研究会での議論や研究室での会話等のやりとりにはそれほど問題がないのに,研究室のLINEやSlack等のやりとりにはついていけなくて困っているという留学生の話も聞いたことがあります。教職員や研究室に所属している学生の皆さんは少し気にかけてもらえると嬉しいです。下記のページで紹介している「やさしい日本語」も参考にしてみてください。

dlit.hatenadiary.com

おわりに

私の授業でもメールの書き方をやりますが,テンプレの表現や文法の説明よりは「依頼」する場合に気をつけることに重点を置いています。「依頼」は実は難しい行為で,専門的な言語研究もたくさんあります。大学の学生だと,大学教員のようなふだんそれほど親しくやりとりしていない相手にも,場合によってはかなり負荷の高い依頼をしなければならないという点が難しいところですね。

メールに限らず,文章表現はテンプレで問題ないところはそれで良いと思います。たいへんなのは,テンプレをベースにちょっと変更する場合でも意外と難しかったりすることなんですよね。たとえば日本語の「依頼」では理由や状況の説明が重要な役割を持っていますので,ある程度説明する能力も求められるというような大変さもあります。テンプレから外れなければならなくなった時のために,早い段階から継続的に経験を積むことができると良いのではないでしょうか。