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歯切れが悪いのは仕様です。

3歳児のYouTubeからの言語習得と小笠原混合言語のあいさつ

3歳児のおやすみのあいさつ

 さいきんの我が家の3歳児の就寝時のあいさつが「おやすみバイバイまた見てね」になっています(私はこの後も起きることが多いため。寝室からの召喚はたまに発生)。

 「バイバイ」の後に「また見てね」と続けるのは明らかにYouTubeで見ている動画からの影響です(動画に出てくるこどもの発話を真似ている)。

 なので私もこれに合わせて「おやすみバイバイまた見るよ」と返すのですが,このフレーズを最初に発話した際にはっとしました。これは小笠原混合言語のあいさつと同じではないですか。

小笠原混合言語では,日本語の単語でも,英語のように使われることがある。言語学的に言えば,意味や用法の転移が見られるということである。例えば,(中略)「友達をミル」(友達に会う)というような表現が日常的に聞かれる。最後の表現は「マタミルヨ」という別れの挨拶ことばに見られるものであるが,これは英語の"see you again"を直訳したものである。
(ダニエル・ロング,橋本直幸(編) (2005)『小笠原ことばしゃべる辞典』: 18-19,強調はdlit)

小笠原ことばしゃべる辞典 (小笠原シリーズ (3))

小笠原ことばしゃべる辞典 (小笠原シリーズ (3))

 というわけで父は盛り上がったのですが,3歳児にこの感動を伝えるのは難しかったのでここに書いてみました。

小笠原混合言語

 小笠原混合言語についてはTwitterなどを見ていてもあまり話題になるのを見かけませんので,ちょっとだけ引用を紹介しておきます。この言語の研究の第一人者であるダニエル・ロング氏がいくつか本も出していますが,新書レベルの値段のものはまだないようですので。

小笠原には,日本語と英語が混ざっている独特なことばがあるが,これはただ単に二つの言語を話者が適当に混ぜている訳ではなく,その混ぜ方を支配する原則があるようだ。(中略)小笠原の混ざったことばにもルールが存在する。そのことは簡単に確認することができる。編者のようによそから来た人が恣意的に英語と日本語を混ぜて話すと欧米系島民から「そういう混ぜ方はしないよ」と「不合格」の判定をもらう場合がある。島民はこうした原則の存在を意識しながらしゃべっているわけではないが,欧米系同士の自然会話を聞いていると,それは他の言語と同様,文法規則を持つ言語体系をなしていることが分かる。
(ダニエル・ロング,橋本直幸(編) (2005)『小笠原ことばしゃべる辞典』: 15)

YouTubeからの言語習得

 日本語教育に関する話題で,(特に海外の)学習者がYouTubeで日本語を学習するとアニメ等から日常会話では使わないようなフレーズを習得してしまうことがあるという話が時々出てきます。

 分かりやすいのが役割語ですね。役割語については下記のエントリとそのリンク先をご参照下さい。

dlit.hatenadiary.com

 で,子育てしていてこどもにもこれと同じ(似たような)ことが起こるというのを今まさに体験しています。まだアニメ系は全然見ないのですが,明らかにYouTubeの動画の影響でふだん周りでは使われていない女性語を発話したりします。たとえばままごとで料理ができた時に「できたわ(上昇調)」と言うようなやつですね。

 こどもはYouTubeに限らず絵本に出てくるフレーズもばんばん真似しますのでYouTubeが言語習得に悪影響を,みたいな心配はぜんぜんないのですが,YouTubeに出てくるこどもたちの発話にもう今はあまり使われなくなってきたと指摘されるような女性語・男性語が出てくることがあって意外でした。

2018年の年間ベスト(個人的おすすめ)記事

はじめに

 いろいろなものに追われまくっていたり体調を崩したりMacBookのEnterキーが壊れたりしているのですが,今日が今年最後の平日だということに気付きましたので慌てて書いています。

 自分が書いたブログの記事の個人的おすすめのまとめで,id:gryphonさんの下記の提案の応援です。

m-dojo.hatenadiary.com

 以下,リンクばかりで長いので先にまとめというかあいさつを書いてしまいます。

 研究面では発表が多かったりして楽しかった側面もありましたが,総合的には2017年よりさらにつらい1年でした。ブログも数だけ見ると平均より多めに書いているのですが,短期間に集中的に書いて後の時期はまったく書かないというのがこれほど極端な年はなかったような記憶があります。ただこうやって振り返ってみるとやっぱり書いておいて良かったなと思うものが多いです。来年はどうなることやら。

 それではみなさま良いお年を。

過去のもの

読んでみてほしい記事

dlit.hatenadiary.com

 私としては書くのにかなり決意が必要だった記事ですし,内容も書き方もかなり悩みました。さいきん沖縄絡みの話題では気持ちが暗くなってばかりです。

研究

dlit.hatenadiary.com

 発端になった記事は過去最高の被ブクマ数になったのですが,こちらはそれほど。この後しばらく定期的にまとめに加えられる情報が出てきていないかと思って探していたのですが,結局長い盛り上がりにはならなかったようです。各分野の専門家の方々,今からでもどうでしょうか。

dlit.hatenablog.com

dlit.hatenadiary.com

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言語学

 あまり記憶になかったのですが,年の初めの方にちょこちょこ書いていました。

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身の周りのことばやコミュニケーションの分析

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 ゲーム語研究はまだネタがいくつか眠っているのですが,なかなかまとめる時間がありません。

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読書案内やまとめ

dlit.hatenadiary.com

dlit.hatenablog.com

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 役割語に関してはずっと書こうと思っていたものです。

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Web

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 ブログとしてはやはりこれが大きな話題でした。意外と違和感なく使えています。

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子育て・生活

 この話題はほぼ別館でばかり書いていますね。

dlit.hatenablog.com

dlit.hatenablog.com

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日本英語学会第36回大会雑感

 あまり予想していなかったのですが,久しぶりにお会いしたりお話ししたりできた人がけっこういまして,それだけでも参加して良かったなと思います。おそらくごあいさつもできてない人もいたのではないかと思うのですが,別の機会を狙います。

dlit.hatenadiary.com

シンポジウム

 私が分散形態論 (Distributed Morphology)を使った研究をはじめてからもう10年以上経ちます。

 はじめたばかりの頃と比べて今では国際的に研究がかなり増えましたし,日本国内でもこの枠組みを使って研究した/している人は増えてきましたので,それでもこのような機会に声をかけていただけるというのはありがたいことです。

 この理論自身もスタート地点とされるHalle and Marantz (1993)から25年経っていくつかの変遷を経ていますので比較的さいきんの状況について紹介できたのは良かったと思います。特に企画・司会の大関洋平さんがやってくださったイントロ・概観のような内容を日本語で聞ける機会というのは今でもなかなか貴重ではないかと。

 私の話した内容については,論点の整理・紹介という側面が強く,またけっこう理論内部の事情が絡むお話でしたので「こいつはいったい何と戦っているんだ」感があったと思います。やっぱりさすがにもうちょっと現象の紹介を増やせば良かった(反省

英語学との関わり

 おまけです。

 こんかい,複数の人から「英語学会でも発表するんですね」的なことを言われました。実は数年前にワークショップもやっているのですが…というのは置いておいて,これは私がふだん関わっている学会は日本語学系だということに関係していると思います。

 日本語だ英語だということと,研究手法・研究内容の関係にはいろんな可能性があって,どれが正解・間違いということはないのですが,制度面や歴史的な経緯等の要因から,傾向性のようなものは見えることがあります。

 言語学で言うと,いわゆる(名前が付いた特定の)理論を使う研究については,「英語学」という名を冠する分野(あるいは学科・コースや研究科)が1つの大きな拠点と言えるのではないでしょうか。

 私は,言語研究のキャリアを日本語文法研究のいわゆる四大文法(山田,松下,橋本,時枝)や渡辺実,佐久間鼎,三上章等の文献を読むところからはじめた人間ですので,その点を考慮すると「日本語学」的な人と言えると思います。研究対象も基本的にはずっと日本語ですしね。

 ただ生成文法や分散形態論を使って研究をしていると,制度やキャリアの面で「英語学」的な人と関わることが多いのですよね。ふだんの付き合いではそういうことを意識することも必要もないので忘れているのですが,学会や出身の話になった時に驚かれることもあります。

 こういう話は研究の本質的な話ではないと思われる方も多いかもしれませんが,一方で(今のところ)我々は「大学」や「学会」といった制度と付き合っていく必要もあるわけで,論文等にもしにくい話ですから,ブログなんかがちょうど良い媒体かと思って書いておくことにしました。

さらにおまけ

 今回のシンポジウムをオーガナイズしてくださった大関洋平さんとは,発表者の1人でもある成田広樹さんが主催された勉強会に参加したことで知り合えました。成田さんと出会ったきっかけは依田悠介さんの博士論文のディフェンスを聞きに行ったことで,飛び入りで勉強会に参加させてもらいました。

 このようなことを思い返すと昔からふらふらしていたんだなあと思うわけなのですが,こんな突然イベントに現れるよく分からない人間を迎え入れて下さる皆さん,ありがとうございます。今はなかなかそういうこともできなくなってしまっていて残念です。

 研究のつながりってもちろん内容も重要なのですが,何がきっかけになるかわからないのが面白いですね。